アーサーの日本語つれづれ草 アーサー・ビナード
  【第7回】  ビバリーヒルズ丸めんこ →バックナンバーに戻る

 いま思うと何だか昔のような感じがするが、さきおととしの師走、世の中が2000年問題の杞憂で盛り上がっていた時期のこと。比較的ローテクに生きているぼくは、Y2Kなんぞどこ吹く風だったが、全盛を極める「ポケットモンスターズ」でいささか取り越し苦労をしていた。ミシガンのいとこの息子が Pokemon に夢中になり、アメリカ版のゲームやグッズを集め、しかしそれだけでは飽き足らず、原産国に住むぼくのところへクリスマス前に、漠然としたオーダーが飛び込んできた。
 それまでぼくは、「イエローでポチャポチャのやつがピカチュウだったっけ」ぐらいの興味しかなく、まったくのポケ門外漢だった。慌てるようにして放送の曜日と時刻を調べ、ビデオに録りながら観て、モンスターの一夜漬け勉強。あとは玩具売り場の店員に相談して、ミシガンのミレニアム少年が欲しがりそうな品を揃えた。
 その年のクリスマスはアメリカに帰らず、母や妹たちへプレゼントを郵送。「来年のいまごろピカチュウは廃れて、新しいキャラクターが一世を風靡しているだろうか」と考えながら、ずしりとしたポケモンパッケージもエアメールにのせた。
 クリスマスが過ぎても、世界の千年祭が不発弾で終わっても、ぼくの老婆心はどこか落ち着かず、疑問が残った−− 日米の子供文化はこれでいいのだろうか?
 小学生のころ、ぼくらだってアニメを観たり、英語吹き替え版の「ウルトラマン」にも熱中したりしたけれど、でも外でビー玉や水切り、缶蹴り、凧揚げなどやらかしている時間が断然多かった。現代っ子たちはバーチャルの世界に入り浸って、地面ではなく画面とばっかりにらめっこ。ローテクの遊びが足りないのでは。そしてそんな悪弊を、ぼくも助長してしまったのか……。ポケットモンスターズの代わりに、例えば紙風船とか、ベイ独楽でも送っておくべきだったんじゃないか……。



 2000年の春に、一時帰国した。そして昔、春夏秋冬のほとんどの休みを過ごしたミシガン北部の釣り小屋へ出かけた。林道沿いに一軒、駄菓子コーナーが充実している古いストアがあるが、小さいぼくは小遣いのかなりの割合をそこで費やしたのだった。久しぶりに立ち寄って、白髪がだいぶ増えたオーナーのラリーおじさんと立ち話。それから懐かしさに駆られて、駄菓子を物色し出した。
 「バズーカ」というバブルガム(ミニ漫画が一枚おまけについている)と、ポップコーン&ピーナッツにキャラメルをまぶした「クラッカージャック」(これもおまけつき)と、ぼくのそんな好物の間に挟まれた箱の中に、直径四、五センチの真ん丸いカードみたいなものがいっぱい入っている。厚さ一ミリほどの堅い紙でできていて、表にいろんな絵が印刷してある −−「シャークアタック」と題して、立派なフカがアメフトのボールを持って猛進していたり、導火線が残り少なくなった爆弾だったり、アイドルの銭形ブロマイドになっているものも。裏は白紙で「3 of 12」といったふうに、何枚セットの何枚目なのか、コレクターのための情報が書かれてあるやつが少なくない。
 「これ何ですか?」と聞くと、ラリーさんは笑って「そうか、君は pogs って知らないのか。ワーッと人気が出たのがここ一、二年だからな。でも一説によるとルーツはジャパンだって、だれかがいってたけどね……」。その不可思議な「ポッグズ」のルールの説明と、店の床でのデモンストレーションもやってもらって「丸めんこ!」と判明。子供文化に詳しいラリーさんでも、さすが pogs の語源までは分からなかったけれど、ハワイから北米大陸へ、そのネーミングで渡ってきたことは確かだそうだ。ま、擬音語である可能性が高い。ともかく、ポッグズ遊びに精を出すアメリカの少年少女たちは、もともと日本のものだという意識が、まるでないらしい。




 めんこが我が故郷ミシガンでブームだったとは。カウンターの上に pogs の箱をひっくり返し、表の絵をひと通り見てみた。すでに落ち目の「ビバリーヒルズ青春白書」の面々だって、堂々たる三十六枚セットになっているのに、なぜかポケモン関係は一枚もなし。
 ジャケットのポケットいっぱい分のポッグズと、「バズーカ」のガムと「レモンヘッド」という酸っぱいドロップも買って帰った。後者をなめながら、ニッポンのトイへ思いを馳せてもう一つ、輸出してみたい遊びを考えついた。それは「福笑い」。原産国では影がすっかり薄くなっているが、アメリカに持ってくれば逆に新鮮で、復活できるかも分からない。もちろん「おかめ」にこだわる必要はなく、サンタでも人気役者でも、受けそうな顔で作ればいいのだ。
 問題はそのネーミング。Lucky Laughs か Funny Smiles みたいな直訳でやったら、嘲笑をかうだけの不発弾で終わってしまうのか。



アーサー・ビナード  
Arthur Binard
1967年、米国ミシガン州生まれ。コルゲート大学英米文学部卒。90年に来日、日本語での詩作を始める。詩集『釣り上げては』(思潮社)で中原中也賞を受賞。絵本に『カエルのおんがくたい』(福音館)、『Our Cup of Tea ティータイムがと・く・い』(星雲社)、訳書に『どんなきぶん?』(福音館)など。
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