アーサーの日本語つれづれ草 アーサー・ビナード
  【第8回】  駄統領! →バックナンバーに戻る

 クリントンからブッシュに変わって、さまざまな面で世界がつまらなくなった。京都議定書は反故にされたし、貧富の差はますます広がっているし、超大国の外交なんぞほとんど無人偵察機にお任せ。さらに、日本語における米大統領関連の駄じゃれも精彩を失ってしまっているのだ。
 この最後の問題に限っていうと、本人が好んで選んだ苗字ではないので、ま、責任の追及は無理だろうけれど、いずれにせよ Bush を片仮名に置き換えるとなんとも鈍重で、〈駄じゃれダネ〉としては手の施しようがない。


 米軍がアフガンの上空から、爆弾ばかりでなく救援物資もばらまいていた時期に一度、ラジオのニュースでアナウンサーのいう「物資」が「ブッシュ」に聞こえ、プレジデントがレトルト食品もろとも空から降ってくるという不謹慎なピクチャーが、ぼくの頭をよぎった。しかし、それは聞き間違いというもので、駄じゃれの域には達していない。
 片や「クリントン」。その名は軽快なリズムと、濁音促音一つない澄み切った響き。当選直後には、駄じゃれの愛称「クリキントン」が早々と出回っていたはずだ。その後、どれだけの「○○ントン」が世に捻り出されたことか。しかしそれらがいっこうに思い浮かんでこないくらい痛快でドンピシャリのニックネーム決定版が出現した −−「フリントン」。おそらく歴代大統領をもじった駄じゃれの中で最高峰であろう。つい分析したくなる。
 手元の『大辞泉』の「しゃれ(洒落)」定義には、こう書いてある−−「ある文句をもじったり、同音や似た音の言葉に掛けて言ったりする」。音の類似を、いわば瞬間接着剤にして、意外かつ異質な言葉をピタッとくっつけて、物事の実態をつかまえる。そうやって組み合わさったパーツが、言語的に異質であればあるほど、駄じゃれの効果が高まる傾向がある。Clinton の語源を調べてみると「突き出た岩」を意味するワードからきているらしい(ジャパンの苗字に訳すなら「岩崎」あたりか)。だが、アメリカ国民はだれもそんなルーツなど頭になく、ただ割りかしよくあるイギリス系の、ちょっぴり由緒正しいラストネームと見る。そのうえ、「クリントン」と日本語に置き換えられると、由緒の有無だの何系だのみな吹っ飛んで、サウンドのみとなる。
 そこへ「不倫」という意味深な、含蓄の滴がしたたるような漢語を持ってきて、モニカにまみれたプレジデントを鮮やかに表現。ひょうたん島初代大統領ドン・ガバチョの言葉を借りていえば、「みなさーん、何と申しましょうか! お見事!」だ。
 その点、ブッシュはやはり「おさるのジョージ」止まりか……。



 ほとぼりが冷めやらぬままクリントンの二期目が終盤に入り、ミレニアム目前のころ。日本ではリストラによる失業者が増え、景気は悪化の一途、でもいよいよこれからホンマに恐ろしい末法的リストラが始まるぞ、といった予言が盛んに飛び交っていたのだ。そんな中、「リストラダムス」という語が出現する。記憶は定かでないが、最初はスポーツ新聞の見出しで見たような。いま考えると本元のノストラダムスとは対照的に、「リストラダムスの大予言」だけが、おおよそ的中したではないか。皮肉というか、当然というべきか。




 場所のネーミングに駄じゃれを採用する際は、かなり上等のものを選ばなければ、飽きられてしまう。もちろん、ネーミングが傑作だからといって、事業が成功するとは限らない。
 たとえば以前、たしか関西のある自治体が、多種多様な犬をたくさん集めて、客が犬と遊べるテーマパーク「イヌバーサルスタジオ」を計画したことがあった。名前を聞いただけで、ユニバーサルの方を素通りしてでも、すぐに出かけてみたくなる。けれどどうやら、犬のエサ代がかさんでオープンよりも前に資金難に陥り、ポシャったそうな。
 またひとむかし前、千葉県の一角にひどくバブリーな高級住宅地が計画され、洋風豪邸が何軒もでき上がりはしたが、肝心なバブルが破裂してなかなか買い手がつかず……。 結局どうなっただろうか。テレビでは一時期「チバリーヒルズ」と騒いでいたが。ぼくは最初、マスコミが作ったニックネームかと思っていた。でももしかしてあれは、不動産業者が捻り出したもの?  いや、相当の駄じゃれ王の作に相違ない。
 当たり前田のクラッカーか。



アーサー・ビナード  
Arthur Binard
1967年、米国ミシガン州生まれ。コルゲート大学英米文学部卒。90年に来日、日本語での詩作を始める。詩集『釣り上げては』(思潮社)で中原中也賞を受賞。絵本に『カエルのおんがくたい』、翻訳絵本に『どんなきぶん?』(ともに福音館)など。
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