アーサーの日本語つれづれ草 アーサー・ビナード
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 町中の広告板や店の棚を見回せば、マーケティングにおいて「駄じゃれ」という手法がどれだけ重宝しているか、今さらながら驚く。ロックミュージック業界も例外ではなく、初期のころから現在に至ってさまざまなバンドのネーミングに、駄じゃれは駆使されてきた。
 中でも有名なのが、全世界の黄色い声の的となっていた「ビートルズ」。ロックそのものの最大セールスポイントである拍子「BEAT」と、丸っこくて虫類にしては受けがいいカブトムシ「BEETLE」を掛け合わせたものだ。四人組なので複数の S がつき、また、登録商標申請済みのほかならぬオイラたちというので、定冠詞を頭にいただいて「THE BEATLES」。駄じゃれとして、痛快とまではいかないけれど、そこそこ耳に楽しいし人畜無害だし、それに音楽のイメージを下手に決めつけないところがいい。
 昆虫少年だったせいか、ぼくはリンゴのマッシュルーム刈り頭が、どことなくスカラベの頭部に似ている気がした。本人にそんな自覚が、あったかどうか。



 今までに出くわした数々のバンド名で、冴えない駄じゃれのワースト1は、やはりメイド・イン・ジャパンの「ポルノグラフィティ」か。猥褻描写の「porno」と、落書きの「graffitti」を合体させたネーミングだが、蓋を開けてみれば、実は前者の「porno」が「pornography」の短縮形にほかならない。「graphy」といえば「graffitti」と同じ「描く・書く」を意味するラテン語からきていて、いわば兄妹なのだ。
 そもそも駄じゃれというテクニックは、言語的に遠いもの同士をくっつけ、その新生語が内包するギャップによって効果が出る。すでに語源でしっかりつながっている言葉を、また二重につなげるなんて屋上屋を架すというか、言語的近親相姦ではないか。
 それでも、まったくイメージがわかないというわけでもない。要は、つまり「淫猥いたずら書き」・・・・・・たとえば、「男子トイレ」に入ると、壁あるいは便器の間の仕切りに、性や排泄に題材をとった下品な絵と言葉が刻んであったりする。これぞまさしく「ポルノグラフィティ」。
 ただ、わざわざ命名するほどの代物なのか。最初からバンドも含めて、取り合わない方が賢明かもしれない。



 去年の参議院選挙の際、ある政党が「日本アゲイン」というポスターを貼りまくった。わが近所だけでも六、七カ所に。「again」は、かなり用途の広い英単語だが、たとえば幼児が遊んでいて、何か楽しいことをしてもらったとき、「もう一回!」という意味で連発することがある。「AGAIN! AGAIN! AGAIN!」−−何度も宙に投げたり、ジャンプさせてあげたりする羽目になった覚えのある人も多いだろう。
 そんなオネダリの語感もあって、あの「日本アゲイン」がひどく幼稚な復古主義に思えた。そして、もしローマ字で印刷してあったならば、ぼくはネイティブとして「補筆」したい衝動に駆られただろう。まず「again」の頭の「a」の前に「b」、そして後に「r」を加えれば、立派な「bargain」に生まれ変わるのだ。
 「日本大安売り」。あの参院選の本質に近いものがあったのでは。

アーサー・ビナード  
Arthur Binard
1967年、米国ミシガン州生まれ。コルゲート大学英米文学部卒。90年に来日、日本語での詩作を始める。詩集『釣り上げては』(思潮社)で中原中也賞を受賞。絵本に『カエルのおんがくたい』、翻訳絵本に『どんなきぶん?』(ともに福音館)など。
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