アーサーの日本語つれづれ草 アーサー・ビナード
  【第15回】  2003年宇宙の徒費 →バックナンバーに戻る

 秋が深まってくると、ぼくはクリスマス・プレゼントに悩む。アメリカにいる母と妹と甥たちに、何をどう送るか? もちろん、師走に一時帰国することになれば、バタバタッと出発直前に買って、背負って運べば済むけれど、帰らない年はプランニングが必要だ。



 優等生的なシナリオでいくと、10月に聞き取り調査を行なって品物をそろえ始め、11月中旬には梱包、船便で発送。だいたい一カ月で米国に着く。プレゼントの用意が、11月下旬か12月上旬にずれ込むと、遅れを覚悟で船便ニューイヤー着を選ぶか、それとも航空便でサンタの締め切り厳守か、決断に迷う。当然、後者のほうが高くつく。
 発送が12月半ばすぎになってしまった場合は、涙を呑んで「EMS国際スピード郵便」にすがるしかない。送り賃が中身の市場価値の数倍かかること請け合いだ。
 でもぼくの経験でいうと、船便を使っても送料とプレゼントの値段が、おっつかっつのケースが少なからずある。大した品をプレゼントしていないからだが、ともかく毎年、郵便局の窓口で、バカらしさを噛み締めながら今年もいよいよ終盤に入ったなと実感する。
 そして、その延長でぼくの思いは、宇宙へと発射。スペース・シャトルは今度いつ飛ぶだろう? そのために税金はいくら吹っ飛ぶか? 有人宇宙船も、ぼくのクリスマス・デリバリーとまったく同類だ、割に合わないという点で。ただし、前者は百兆円単位で高くつく。



 スペース・シャトルの通い路で、現在「国際宇宙ステーション」なるものがグルグル回っている辺りは、low-Earth orbitと呼ばれる、地球に近い軌道だ。近い分、比較的安全なハズだったけれど、USAやUSSRがそこに残した大量のゴミが、今や危険な障害物と化しているそうだ。
 ところが、その宇宙のゴミがもし、みんな純金だったらどうか? 今朝の新聞を覗けば、金の相場は1グラム=1313円とある。物理学者のロバート・パークの慎重な計算によると、スペース・シャトルで宇宙の近場から何かを地上に持ってくるのに、1グラム当たり約3300円の運び賃がかかる。つまり宇宙で得られるものが、たとえ金塊であったとしても2.5倍以上のコストがかかり、どうやっても天文学的大赤字。何百トンもある国際宇宙ステーションの部品をピュアーゴールドで作ろうと、プラチナを使おうと、それよりも現場へ届ける費用のほうが断然かさむ。




 人間が宇宙へ出かけて、実際に得られるものはといえば、下痢と不眠。長期滞在すれば骨がスカスカ、筋肉も心臓も衰え、免疫力が低下、うつ病にもかかりかねない。いわば実験動物としてミールにのった宇宙飛行士たちが、そういった人体への影響を詳しく調べてくれたけれど、それ以外の研究成果は、ゼロといっていいほど得るものはなかった。この20余年の間にスペース・シャトルで行われてきた数々の実験も、まるで収穫がなく(残念ながらメダカ関連のも含めて)、増えるは予算額と宇宙のゴミばかり。
 ならば国際宇宙ステーションはなぜ作るのか? いわずもがな、一般市民の目の届きにくいところで、箱物行政を軌道にのせるためだ。癒着構造の宇宙の旅。
 それに、PRキャンペーンの色合いも濃い。本当に宇宙で大きな発見をしてくれるのは、無人探査機である。しかしマスコミはその活躍ぶりをほとんど取り上げない。でも勇敢な人間が下痢に耐えて、世界一料金の高いシャトルバスで生還すれば、ある程度は騒いでくれる。予算を確保するにはマスコミの騒ぎがかかせない。
 宇宙飛行士を夢見る者にとってはショックだろうが、1972年のアポロ17号で、あの華やかな職業は終わった。族議員が泣いても、国際宇宙ステーションの建設を打ち切り、その予算を地球号の環境対策に回すべきだ。数十億の乗客にとって、それが一番のプレゼントになる。

 


アーサー・ビナード  
Arthur Binard
1967年、米国ミシガン州生まれ。コルゲート大学英米文学部卒。90年に来日、日本語での詩作を始める。詩集『釣り上げては』(思潮社)で中原中也賞を受賞。絵本に『カエルのおんがくたい』、翻訳絵本に『どんなきぶん?』(ともに福音館)、近著に『トロピカルショッピングセンター』(フレーベル館)など。

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