わたしの好きなお国ことば 舞の海 秀平(元小結)
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 私の故郷は、青森県西津軽郡鰺ヶ沢町舞戸町。JR五能線の鰺ヶ沢駅のある、日本海に面した町です。「舞の海」という四股名も、故郷の「舞戸町」と、所属していた「出羽海部屋」にちなんだものです。
 青森は相撲がとても盛んな県で、校庭や公園など、あちこちに土俵があります。小学校の相撲大会は運動会と同じくらい大きな行事で、私の通った舞戸小学校でもそうでした。小学校時代に興味を持った相撲を、その後も続けてプロの力士になったわけで、それを考えると、あの相撲大会は正解だったと思いますね。
 青森では、神社のお祭りと相撲はセットになっています。相撲はその歴史をみても神事として位置づけられていました。現代では相撲大会という形をとっていますが、五穀豊穣への祈りと相撲が深く結びついている伝統があるわけです。
 そんな私の故郷の言葉、それは津軽弁ですが、その中でも好きな言葉はと聞かれれば、「けっぱれ」です。「頑張れ」に近いのですが、「頑張れ」ではあまりに漠然としていて、表面的で、力が出ません。これは私の勝手な解釈ですけれども、「けっぱれ」には腹の底から力を出すようなイメージがあります。現役中は特に、何かここ一番、力を出し切らなくてはというときには、「けっぱれ」でなくてはなりませんでした。













 また、津軽弁は、言葉自体が標準語と違うだけでなく、ひらがな一字一字で表せないような、話すときの音、トーンが違います。例えば、誰かと久しぶりに会ったとき、おまえ、本当に久しぶりだなあ、何十年ぶりかなあ、という気持ちを込めて、「オーーーーーーアッ」というふうに、最後の音が「ア」になるまで、声を出す。でも、もしその2、3日後に同じ人に会ったら、軽く「オッ」でいいわけです。言葉を並べて、言葉数で気持ちを表すのではなく、津軽弁を話す者同士だけに通じる音に込めてしまうのです。そのトーンが大事です。よその地方の人に同じ言い方をすると、意が伝わらずに失礼になりますが…。
 そして、たとえば、「あずましい」という言葉。ゆったりした穏やかな気持ち、幸せな気持ちのときに使いますが、心底、あとはどうなってもいいというくらいの気分をいうのです。東京の言葉はきれいでいいけれど、このように一言で心情を表すには、やはり津軽弁ですね。
 方言といえば、私が在籍していた日大の相撲部のことも思い出します。青森の出身者と鹿児島出身の人とが多くて、どちらも相撲が盛んな県でしたから、北代表、南代表みたいなライバル意識をもっていました。方言も意識し合っていて、お互いにお互いの言葉を使ったりしていました。
 その後、相撲取りになって、日本各地に出かけることも多くなりましたが、九州で「うらめしかー」とか、名古屋では「えらい、えらい」「たわけ」というように、その土地ならではの言葉を聞くとうれしいです。そして、ひとつでもふたつでもその土地の言葉を覚えて使えるようになると、仲間に受け入れてもらった気になって、そこでの居心地がよくなります。
 今でこそ懐かしく思える津軽弁ですが、大学入学と同時に東京に来たときは、言葉に関してコンプレックスを持っていました。憧れの都会、東京で、生活しづらかったですね。それがいつの間にか、故郷の風とか匂いとか言葉に心惹かれるようになってきました。でも、津軽でも若い世代は津軽弁をあまり話さなくなってきています。これは寂しいことですね。
 疲れたとき、近くの温泉に行くのもいいのですが、青森空港に降りたって津軽弁を聞くと、故郷の町の風景が浮かんできて、ほっと安まる気がします。(談)



舞の海秀平 
(まいのうみ・しゅうへい)
日本大学経済学部卒。1990年5月、大相撲・出羽海部屋に入門。同月、初土俵(幕下付出し)を踏む。1991年3月、十両(四股名:舞の海)に昇進し、同年9月幕内入り。 角界最小の身体ながら、「猫だまし」、「八艘飛び」などファンを驚かせる数々の技をくりだし、"技のデパート"の異名をとる。1999年11月の引退までに、技能賞5回受賞。現在、NHK大相撲解説者、帝京大学講師などをつとめる。
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