わたしの好きなお国ことば 山田 昌(女優)
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 お国言葉がある人は幸福です。
 現在では、学校で最低限の共通語で勉強してくるのか、面白くなくなりましたねえ。私は知多半島の「常滑」と云う焼物の町に生れ、19歳まで育ちました。「トコナメ」と発音せず「トコナベ」と訛って云っていましたので、駅にも長い間「トコナベ」とふりがながしてあり、私も信じていました。高校を卒業すると同時に名古屋のNHK放送劇団に入り、半年間毎日、休憩時間もノビノビとお喋りする事も出来ず、アクセントをたたき込まれました。常滑弁とはあまりにも違っていたので、驚きながらも直すのは意外と楽でした。
 常滑は「あのねえ」は「あのなあへえ」、「ね、ね」は「へえへえ」でしたので、自分で返事をしている、とよく笑われました。主人が初めて我が家へ来た時「どうぞゴロメテオクレヤ」と云われ、まるでわからなかった事を今でも言います。「どうぞ横になってお休み下さい」と労った言葉です。
 その後50年以上名古屋人になったわけです。20年位たった頃、名古屋を舞台にした私の主演ドラマが続きまして、名古屋弁も少しずつ市民権を得ていきました。その時心がけたのは、正確に使う事よりも、全国の人にも何とかわかり、そして汚くないのを選びました。「本物だ!」とか「名古屋弁女優だ」とおっしゃって下さいますが、真っ赤?ではないにしても贋者ですので、「放送用名古屋弁山田流家元」と云う事に致しました。名古屋弁は文字に書けば標準語と同じです。アクセントが第三音節から上がるのが特徴ですので、隠していてもわかります。それから発音がむずかしく、中間音が多く、フランス語の様だそうですよ。上町言葉は、敬語がいくつも重なり、京都弁にも似ています。若い人達が面白半分に使っているのは、唯、唯汚いのが多く悲しいです。私達は残したい言葉を集めて(老人芝居になりますが)舞台を続けています。方言には意味が幾重にもあるのがいいのです。一色ではないのです。

 「ニヤァ」と発音すると猫。「ニ」を「ナ」に近く発音してみて下さい。力をぬいて言ってみて下さい。使いなれた名古屋弁になります。一寸不明瞭に言ってみて頂デヤァあそばせ。私も贋者のくせして偉そうな事云って「ゴブレイシマシタ」(失礼致しました)
 面白いのは沢山ありますが、代表的なのを一つ。
 「やっとかめだナモ」(久しぶりだねぇ。)
 人の噂も75日。それもすぎた80日目。
 八十日目(ヤットカメ)だナモ。表現一つで、どの位久しぶりかがわかります。「どんな瓶?」と聞かんといて頂戴ョ。言葉は文化です。それぞれの生活から生れた言葉、いろんな意味の入った言葉を恥じる事なく、生々と使える俳優でありたいと思っています。同じお国言葉の人と出逢うと、それだけで盛り上がりますものねえ。お国言葉があって幸せ。


山田昌 
(やまだ・まさ)
女優。1930年、愛知県常滑市生まれ。49年、NHK名古屋放送劇団に入団。81年、NHK銀河テレビ小説「祈願満願」に主演。以来、名古屋弁女優として知られ、テレビ、映画、舞台で活躍。また、夫の俳優、天野鎮雄氏とともに劇団「劇座」を主宰。主な出演作品に、映画「黒い雨」「カンゾー先生」、テレビドラマ「名古屋嫁入り物語」シリーズ、舞台「はなれ瞽女おりん」「越前竹人形」「あヽ結婚」「フィガロの結婚」「プラザスイート」「舞台裏に花束を」「ベッドルームファース」「この子たちの夏」「やっとかめ探偵団」「開化堂暦噺」「夜明けの街」「ハロルドとモード」「じゅんさい女房」「飢餓海峡」など。82年、名古屋市芸術賞特賞受賞。92年、愛知県芸術文化選奨受賞。98年、松原英治・若尾正也記念演劇賞受賞。
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