わたしの好きなお国ことば みなみ らんぼう(シンガーソングライター)
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 東北新幹線の下り列車に乗ると、仙台から二つ目の駅にくりこま高原というのがある。周囲を見渡すとたんぼばかりで、どこが高原だ?という人もいる。そこで生まれ育った僕も初めのうちは「うーん、これはくりこま平原ではなかろうか?」と首をひねったりもしたのだが、三年も経つとなんとなく涼し気でその名前に慣れてしまった。
 近くにラムサール条約で有名になった白鳥の飛来地伊豆沼があるせいで“くりこまスワン駅”なんて案もあったらしく、その奇妙キテレツな名前に比べれば、ずいぶん良かったと胸をなでおろしたものだ。今や駅名の方が町の名前より有名になってしまったのも皮肉だが、念のため言うと町名は志波姫(しわひめ)町と言う。
 くりこま高原の駅ホームに立つと、北に駅名ゆかりの栗駒山(1627m)が望める。五、六月には山腹に白馬の雪渓紋様がクッキリと浮かぶ。かつては農作業の目印にされた紋様だが、今はアマチュア写真家の格好の被写体となっている。
 改札を出ようとすると、駅員さんは「おばんです」と誰かれとなく声をかける。東京言葉で言えば「こんばんは」という意味だ。
 昔、娘達が小学生の頃里帰りした。夕方僕の実家に近所のおばさんがやって来て「おばんです」と言う。そして娘達を発見し、「あら、お嬢ちゃん達も来てたんですか、おばんです」と娘達に声をかけた。
 我家(うち)の娘達はかしこまって、「子供です」と答えたので、周囲の者は腹をかかえて笑ったが、娘達は何で笑われたのか解せず、頬をふくらませていたのが忘れられない。 そんな恥ずかしい思いをしたとき、僕の田舎では「おしょうすい」と言う。いやいや小便のことではない(笑)。恥ずかしい、という意味の古い言葉なのだ。そう、良く時代劇などで「笑止千万」とか「これは笑止なことを言う」などと使う言葉の笑止が語源である。つまり笑いが止まるようなこと、イコール恥ずかしいことという武家言葉が、封印されて残っているのがみちのくらしい。

 カエルのことはビッキと言う。オタマジャクシはギャロモだった。何だかイタリア語みたいでしょ?
 僕は東京に出たての頃、紙をクシャクシャに丸めたりすることを、田舎の言葉で「モジャグル」と言って、東京の友達に何を言ってるか分らないと笑われたことがある。僕はてっきりモジャグルは全国共通語だと思っていたので、ショックだった。でも、クシャクシャにするなんて言うより、ずっと雰囲気ある言葉だと思いません?
 もう古里を離れて四十年近くなるのに、古里の言葉はいいものだと思う。また年取ったがゆえに「ほでまず」(さてそれではの意)とか「ちょすな!」(触るな)「いずい」(シックリこない)など、積極的に使って周囲を煙に巻いている(笑)。
 ほでまず、この辺で失礼します。お国言葉をどんどん使って楽しい人生にしましょう。



みなみ・らんぼう
シンガーソングライター・エッセイスト。1944年、宮城県生まれ。本名、南寛康。法政大学卒業後、コピーライターとして活動。71年、「酔いどれ女の流れ唄」で作詞・作曲家としてデビュー。73年、「ウィスキーの小瓶」で歌手デビュー。 76年、「NHKみんなのうた」で「山口さんちのツトムくん」がミリオンセラー。以後、歌手活動とともに、映画・テレビの音楽を数多く担当するほか、リポーター・エッセイストとしても活躍。また、96年に本格的に登山を始め、98年にはキリマンジャロに登頂。2000年、武蔵野市教育委員に就任。2001年、30周年記念アルバム「三十年目の途上にて」をリリース。著書に『八ヶ岳キッチン』(フレーベル館)『ぼくの中学生時代』(ポプラ社)『山からこんにちは 』(毎日新聞社)『みなみらんぼうの一歩二歩山歩 』(中央公論新社)など多数。
ホームページ「Bravo! らんぼう」
http://www1.biz.biglobe.ne.jp/~rambow/
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