わたしの好きなお国ことば 水木しげる(漫画家)
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少年時代。故郷境港で船に乗って遊んでいるところ。前列右端が水木さん。



















































 「がいなもん」というのは、子供の時しょっちゅう使っていたが、大人になるとどうしたわけか、あまり使わない。
 私は生まれ育ったのは鳥取県の境港で、「がいなもん」といえるものが、境港にだけ格別に多かったというわけではないと思うのだが。
 「がいなもん」は「偉大な」とか「巨大な」とかいう意味もふくまれるが、そういう普通の言葉にはない感じ、ふつうのことばでは表現できない意味が、それこそ「がいなもん」なのだ。
 小学生の時、一年上の学年に“ひょうタン”という男がいた。「タン」というのは「ひょうさん」と「ひょう君」の間にあたる私の田舎の敬称である。小学校三年生の時、私はその“ひょうタン”が「がいなもん」であることを知った。
 その時、彼はカエルがヘビに食べられるところを見ていたのだが、何を思ったのか突然ヘビをつかまえたのだ。
 「あーっ」と驚いていると、いきなりヘビの口を手にもって、何とヘビを縦に引き裂いたのである。
 そのバカ力よりも、意表をつく動作に腰を抜かした。
 “ひょうタン”は、食べられたカエルがすぐに逃げるものと思っていたが、ヘビの胃液はすごく、カエルは腹から出ても動けず、目を白黒させるだけであった。
 以来“ひょうタン”には「がいなもん」として、一目おくことになった。
 「がいなもん」は、それこそいろんな場面で使われていた。
 例えば、総理大臣になったとする。するとその評はたいてい
「ガイなもんだなァ」
となる。
 また、ケンカで、五、六人なぐりたおす、
「あや(彼は)ガイなもんだ」
となる。
「普通でない」「普通よりすごい」といったことは、たいてい「がいなもん」になるわけだ。
 褒めるときばかりではない。例えば女性を五、六人強姦する。そうすると
 「なんと、あや(彼は)ガイなもんだ」
となる。
 荒っぽい、とか意表をつく強さであるといったようなことも、たいてい「ガイなもんだ」となる。いわゆる「普通でない、すごいこと」が「ガイな」ということになるのだ。
 また、意味もなく大食する、これもまた、
 「あや、ガイなもんだ」
となる。
 丈夫な、とか達者なとかいうことも「ガイな」といわれる。
 また、普通のケンカに石で頭をなぐったりすると
 「なんとガイなもんだ」
となる。
 乱暴なことだって「がいなもん」なのだ。
 要するに、普通の言葉ではひと言で言い表せない、強大で意表をつくといった行為すべてに対して、「ガイな」という言葉が用いられていたようだ。


水木しげる
(みずき・しげる)
漫画家。1922年鳥取県境港市生まれ。太平洋戦争時、激戦地であるラバウルに出征し、爆撃を受け左腕を失う。復員後紙芝居画家となり、その後貸本漫画家に転向。
1965年「別冊少年マガジン」に発表した『テレビくん』で第6回講談社児童まんが賞を受賞。代表作に『ゲゲゲの鬼太郎』『河童の三平』『悪魔くん』などがある。
1991年紫綬褒章、96年日本漫画家協会文部大臣賞、2003年旭日小綬賞を受賞。
2003年3月、故郷の境港市に水木しげる記念館が開館した。
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