わたしの好きなお国ことば 山口マオ(イラストレーター)
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東京井ノ頭から遊びに来た祖母と(左から二人目が筆者)







イラスト 地図







千倉の生家にて(昭和40年頃)





イラスト おっぺす






今後の予定



イラスト ターターんなっちまったあで


 私が生まれ育ったところは、房総半島のほぼ南端に近い千倉町というところで、実は今でも千倉に住んでいる。生まれてからずっと住んでいるわけではなく、高校を卒業してから20年は東京に住んでいた。その間、地方出身の友達などが集まると方言の話になる。関西や九州、沖縄、東北あたりの言葉は、TVドラマやバラエティー番組などにもよく登場し、日本語の方言として、十分市民権を得ている感がある。それに対し、東京に近い、関東近県のお国ことばというのは、とてもマイナーで、おまけに、コンプレックスを強くもっているケースが多い。たとえば福島、茨城、栃木、そして、私の住む千葉県。
 千葉というと、たいていの人は、千葉市や、ディズニーランドがある浦安や海浜幕張、そして、松戸や柏などのもはや都会的なベッドタウン、さらに成田の国際空港などを想像する。それらの町は、殆どが、東京弁、つまり、標準語を日常語として、使っているが、実は千葉県というのはたいそう広く、私の住む南房総の千倉と県北の千葉、松戸、柏などとでは、気候も違えば植物相も違う。県北が温帯とするならば、南房総すなわち安房の国は、亜熱帯気候であると言える。このへんは湿度が高く蒸し暑く、ジリジリと太陽の光が異常に強い。空気が澄み、夜の星空もよく見える。潮風や西の風が強く吹き、海岸や畑では大声で話さなければ、会話がうまく成立しない。そんな環境であるから、おのずと、そこに住む人達つまり原住民は都に近い人々とは、人種が違うのではと思われる。昔から、あばら骨が一本足りないとか三本足りないとか言われる房州人の、特に今回は千倉弁のいくつかを紹介しよう。
 私が、わりと気に入っている言葉に「おっぺす」がある。これは、「押す」という意味の言葉だが、押すよりもやや、おマヌケで可愛らしい。さらに、「や〜ぶ」「やんでいぐ」これは「歩く」「歩いていく」の意。最近、鴨川市に「おんだわんだ」という名のコーヒー豆屋さんが出来た。変わった名前だなあ?とよ〜く考えてみたら、「おんだぁ」が「僕たち」「わんだぁ」が「君たち」なので、「おんだわんだ」は「僕たち君たち」という意味となる。うむ、中々、しゃれた名前をつけるものだ。「おだす」「おだされっどお」という言葉がある。「しかる」「しかられるよ!」という意味である。極めつけは「たーたー」という言葉がある。これは、むずかしいでしょう?これが解る人はまず、いないと思う。使い方は、「わら、あんなん呑んで、たーたーんなっちったあでまんで。かっ!しょうがあんもんで!」あれ?超ド級の方言になってしまいました・・・・・。日本語に訳すと・・・
「おまえは、あんなに(お酒を)呑んで、ぐでぐでに酔っぱらって、使いものにならなくなっちゃったじゃないかほんとうにもう!あきれちゃうなあ!」
・・・となる。日本語訳はなんだかちょっと冷たく、言われた方もおもわずナーバスになってしまうが、千倉弁の方は、あきれながらもどこか笑みを浮かべながら言う感じで、ぐでぐでの酔っ払いをも肯定している状況の会話なのである。つまり、バカにしながらも、根底に愛がある。近頃では、本当にネイティブの老人や、東京に一度も出たことのない地元の青年位しか使わなくなった、千倉弁であるが、よくよく分析すると、案外わるくないな?と思う。私自身はと言うと、母方が、東京の渋谷生まれの井ノ頭育ち、父方が、コテコテのネイティブ系だったので、家の中では、魚の行商をしていた伊乃松じいさんだけが、千倉弁。高校教師をしていた父と、都会出身の母は、標準語だったので、われわれ兄弟姉妹(5人)は、家の中では、標準語。学校や、友達と話す時には千倉弁という、バイリンガルであったのだ。今でも、同時通訳も十分こなす力は保っている。若い頃は何だか恥ずかしいと思っていたが、千倉弁は永遠に不滅であってほしいと、今では思っている。


山口マオ
(やまぐち・まお)
イラストレーター。1958年、千葉県生まれ。1980年代からイラストレーターとして、広告、挿絵、装丁、オリジナルグッズ制作などで活躍。1997年、千葉県の千倉にオリジナルショップ&ギャラリー「海猫堂」をオープン。1987年、ザ・チョイス年度賞入賞。1991年、年鑑日本イラストレーション新人賞入賞。1993年、ロンドン国際広告賞入賞。2002年、「わにわにおのおふろ」第一回アジア絵本原画ビエンナーレ入賞。主な作品に、『わにわにのおふろ』(小風さち作 福音館)、『はがぬけたよ』(安江リエ作 福音館)、『猫町』(萩原朔太郎著 ポイントライン)、『椰子・椰子』(川上弘美作著 小学館)などがある。
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