わたしの好きなお国ことば 高嶋秀武(フリーアナウンサー)
  【第48回】  三浦方言無自覚症候群 →バックナンバーに戻る








高校時代。いちばん右が筆者。


 不覚にもニッポン放送のアナウンサーになるまで自分が方言を話しているとはゆめゆめ思っていなかった。生まれ育った横須賀は東京に近かったし、NHKのラジオを聴いていても何の違和感もなく、自分が話す言葉はいわゆる標準語であると素朴に思っていたのである。
 昭和40年の4月、あの東京オリンピックの翌年にラジオのニッポン放送に入社し、すぐアナウンサーの研修を受けたのだが、その時初めて自分が話していた言葉に中に、いわゆる方言が混じっていることに初めて気づかされたのである。
 原稿を読んでいるぶんにはアクセントの狂いなどは殆どない。問題は原稿なしで自分の言葉で喋るフリートーキングや外に出てあたりの様子を描写する情景描写の時に横須賀や三浦半島の方言がボロボロでてくるのである。
 一番困ったのは日常の会話の中ではもう遠慮なく方言の連発になってしまうことであった。
 人に同意を求める時に「そうだべえ」「そうじゃん」「ほんでもって」等々、油断をするといくらでも出てしまう。
 なにより困ったのは自分自身が方言を喋っているという認識が全くなかったことである。自覚がないから人から指摘をされるまで気づかなかった。
 仕事が終わり、そろそろ帰り支度を始めているときに「早くかいんべーよ」といったら皆が不思議そうな顔をして僕を見る。「今、何て言ったの」と訊かれ「かいんべー。えっ?かいんべーっていわない?」内心、かなり焦った。「かいんべー」は帰ろうよという意味だが僕の育った三浦半島ではごくごく日常の言葉であった。
 このままではアナウンサーはやれない。そこで全く自覚のなかった何気なく発する僕の三浦方言をひとつひとつチェックしてもらうことにした。
 出てくる、出てくる。
 「どうすんべーか」どうする?という意味だが、ちょっと迷ったりすると何気なく口をついて出る。かなり連発していたようで、お前の口癖だよといわれた。
 「そうだべえ」そうだろう?という三浦方言だが、相手に同意を求める時に自然に出る。
 「横須賀の奴って、いつも『だべだべ』っていってるなあ」と先輩から指摘されたことがあるが、まさか自分がその指摘どおりの喋り方をしているとは気づかなかった。僕に限らず三浦半島の人間は自分たちが方言を話しているという自覚は殆どないような気がする。何故だろう。
 思うに、全く標準語と言い方の違う方言ならば即座にこれは方言だと自覚するが、「どうすんべーか」も「そうだべえ」も何となく意味は通じる。そんなところに三浦方言無自覚症候群が発生したのではないかと思うのだ。
 土着の言葉は根強く、今でもフリートーキングの時など思わず口を突いて出てしまう。もうご愛嬌と開き直るしか仕方がないのだ。


高嶋秀武氏 高嶋秀武
(たかしま・ひでたけ)
フリーアナウンサー。
1942年、神奈川県横須賀市生まれ。1965年、明治大学政治経済学部卒業。同年ニッポン放送入社。ニュース・情報・スポーツ・芸能と幅広い分野で活躍。「オールナイト・ニッポン」「大入りダイヤルまだ宵の口」でのパーソナリィを担当。70年代、80年代の若者のトレンドリーダーとして活躍した。1990年、ニッポン放送退社、以後フリーとして活躍。現在、ニッポン放送「笑顔満開!ひでたけ・よしこの大吉ラジオ」(月〜金 15時30分〜17時30分)、その他、幅広い活動を行なっている。著書、「あの人につけたい おしゃべりのクスリ」(小学館)、「できる男(ヤツ)ほどよくしゃべる」(かんき出版 / 小学館文庫)、「ここ一番はしゃべりで決まる」(小学館文庫)など。
オフィスR&Mのホームページ。
http://www.office-rm.co.jp/
閉じる トップへ
new_copyright2003.gif