わたしの好きなお国ことば 柴門ふみ(漫画家)
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徳島時代。前列右端が筆者。


 徳島の方言の大きな特徴は、語尾に「〜じょ」をつけることか。
 イントネーションは関西弁と同じだが、関西弁の語尾が「〜ねん」「〜やん」で終わるのに対し、徳島の女の子の語尾は「〜じょ」で終わる。
「雨が降るじょ」(雨が降ります/未来形)
「雨が降んりょんじょ」(雨が降っています/現在進行形)
「雨が降んりょったじょ」(雨が降っていました/過去進行形)
 赤塚不二夫先生の漫画のキャラクターハタ坊は、
「ハタ坊だジョー」
と、語尾をいつも「ジョー」で統一していたが、徳島とは関係は無さそうだ。ハタ坊は男だし。「〜じょ」は、基本的に女の子の語尾なのだ。
 しかし、私が徳島を離れて三十年。今も徳島の女の子たちが「〜じょ」言葉を喋っているのかどうかは定かではない。
 私が高校生活を過ごした昭和四十年代も、堂々と「〜じょ」言葉で話すのは、ちょっとカッコ悪い(ダサイという言葉も無い時代だ)ことだったので、気取った連中はあまり「〜じょ」言葉を使わなかった。
 高校二年のとき、クラスの女の子仲良しグループで交換日記をかわしたことがある。校内で回覧するノートを、男子にでも見られては大変ということで、全員ペンネームをつけることにした。
〈雲上 条子(うんじょう じょうこ)〉。
 すごいペンネームだ。本名カヨコの彼女がなぜこのペンネームになったかというと、
「ああ、その本なら裏の本屋で売(う)んじょうじょ」
と、彼女が会話したからだ。
売っているよ→売んじょうじょ
 都会派を気取っていた私達グループは仰天した。
「ほんな言葉、おバアハンでも使えへんじょ」
使えへんじょはイケても、売んじょうじょはイケてなかったのだ。このへんの微妙な綱引きは、女子高生ならではである。
 以降、カヨコちゃんは〈売んじょうじょ〉をもじった〈雲上条子〉が仇名となり、交換日記のペンネームとまでなってしまったのだ。
 徳島の方言は、サ行がハ行に変換されていることが多い。それ→ほれ、そんな→ほんな、そして、最も頻繁に使われる接続詞が〈ほなけんど〉である。ほなけんど→しかしながら。
 徳島の母が「ほなけんど」と言うたびに、私の子供達は笑い転げる。ホナケンドという言葉の響きが、なにか子供の心をくすぐるのだろうか。
「ほなけんど。売んじょうじょー」
これが私にとって、最強の思い出深い故郷の言葉である。


柴門ふみ氏 自画像 柴門ふみ
(さいもん・ふみ)
漫画家。
1957年徳島県生まれ。徳島市立高等学校、お茶の水女子大学文教育学部哲学科卒業。1979年、『クモ男フンばる!』(少年マガジン増刊号)でデビュー。ペンネームは、自身がファンのポール・サイモンに由来する。『東京ラブストーリー』『あすなろ白書』『九龍で会いましょう』等テレビドラマ化され話題となった作品多数。受賞:第7回(昭和58年度)講談社漫画賞(『P.S.元気です、俊平』)、第37回(平成4年度)小学館漫画賞(『家族の食卓』、『あすなろ白書』)。現在雑誌連載中の『小早川伸木の恋』(ビッグコミック)のテレビドラマは 2006年1月12日よりフジテレビ系にて毎週木曜日放送予定。
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