そんな巻物は芝居によく出てくる。授けられた人には宝物いやそれ以上の命にも匹敵するものだ。
「菅原伝授手習鑑」という浄瑠璃もそうだ。題名を見て欲しい。伝授とある。授けるのは菅原道真。右大臣にまで出世しながらライバル藤原時平の姦計で九州に左遷。非業の死を遂げ、その怨念が雷神となる壮大な王朝世界のドラマだ。虚実ないまぜにして人形芝居の原作に浄瑠璃作者が書き上げた名作。
菅原道真は書の道にも優れていた。多くの門人の中から、勅命によって一人の弟子を選び、極意を伝えなければならない。苦慮の末、道真が選んだのは勘当されている武部源蔵である。この場面が「筆法伝授」。題名の由来はこれだ。では手習鑑の部分はなにか。有名な「寺子屋」といわれる場面がそれにあたる。手習いつまり読み書きを寺子に教えて田舎でひっそり暮らす源蔵夫婦。道真から一子相伝に近い伝授を受けながらも、勘当は解かれていなかった。それは妻、戸浪と不義密通で結ばれたからだ。師匠が許していない恋。「伝授は伝授、勘当は勘当」という道真の筋を通す姿勢を源蔵は守り、どんな貴人の下でも働ける身を自ら埋もれさせている。そこに道真左遷の悲報。源蔵は若君、菅秀才を匿っているが、発見され首を差し出さなければならない。追い詰められ、器量の良い寺子を殺し身代わりにしようと考える。今では考えられない残虐非道なことだが、その身代わりの少年を親が承知で寺入りさせていたことがあとでわかる。
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