第7回 品格


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『女性の品格』(坂東眞理子著・PHP新書)がベストセラーとなり、女性雑誌でも「品格」の使用が頻繁になりました。そこで今回は近代の文学作品から「品格」ある女性たちを集め、日本人にとって「品格」ある女性とはどんな女性なのか考えます。


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「品格」が広まったのは近代以降で、明治の作品では「品格」に「ひん」「がら」等のルビを振ったものもあります。しかし「品格」を用いる作家の多くは「人品」とも「人柄」とも微妙に違うものを表そうとしているようです。


自然にあらわれた「品格」
*倫敦塔〔1905〕〈夏目漱石〉「面影は青白く窶れては居るが、どことなく品格のよい気高い婦人である」

 

その解説
『倫敦塔』は一種の幻想小説で、ロンドン塔を訪問した主人公は塔にゆかりの人物を次々と幻視します。用例の「婦人」は、政争によって2人の王子を塔に幽閉されたエドワード4世の妃エリザベスです。
彼女は苦境によって「青白く窶(やつ)れて」います。しかし、元王妃で超美人だった彼女の「品格」は損なわれていないのでした


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「品格」は家柄や血筋に由来するととらえる人は少なくありません。そういう考えに従うと、常民の子孫は公家や武家の子孫に「品格」で劣ることになります。


士族の「品格」
* 坊っちゃん〔1906〕〈夏目漱石〉七「奥から五十位な年寄が古風な紙燭(しそく)をつけて、出てきた。<略>切り下げの品格のある婦人だが」


その解説
用例の「婦人」は同僚うらなり君の母親です。うらなり君は士族屋敷が並ぶ町内に位置する先祖代々の屋敷に住んでいます。おとなしいうらなり君を「君子」と見る主人公は、「古風な」母親に「品格」を感じています。なお、主人公を偏愛する老女、清も士族出身です。


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前にあげた漱石の二例によって「品格」は苦境や加齢によって失われるものではないといえます。そして次の鴎外の用例で、顔の造作にもあまり影響されないことがわかります。


美醜とは関係のない「品格」
*ヰタ・セクスアリス〔1909〕〈森鴎外〉「僕はお嬢さんを非常な美人とは思はない。しかし随分立派なお嬢さんだとは思ってゐる。品格はたしかに好い。どうもねじくれた処なぞが有りさうにはない。素直らしい」


その解説
用例の「お嬢さん」は見合い相手の令嬢です。主人公は「ねじくれた処なぞが有りさうにはない」のを令嬢の「品格」と見ています。しかし、どうしてもこの令嬢と結婚する気になれないのでした。


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日本の男性は女性の年齢によって「品格」を感じるポイントに違いがあるようです。次の用例では少女らしい清らかさが「品格」につながっています。


少女の「品格」
*野菊の墓〔1906〕〈伊藤左千夫〉「民子は全くの田舎風ではあったが、決して粗野ではなかった。可憐で優しくてさうして品格もあった。嫌味とか憎気とかいふ所は爪の垢ほどもなかった。どう見ても野菊の風だった」


その解説
ノギクはカキツバタやボタンのように格の高い花ではありません。しかし、「可憐で優しく」「嫌味とか憎気」はありません。そこに「品格」を持ち出してくるのは、純情な2人の、悪くいえば田舎くさい恋に、「品格」を与えるための作者の工夫といえます。


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これまでの用例から、近代の日本男子は家柄がよく、古風で、素直で、田舎に住んでいても粗野でない女性に「品格」を感じてきたといえそうです。しかし、女性が感じる女性の「品格」には違った種類のものもありました。


年増の「品格」
* 巴里祭〈1938〉〔岡本かの子〕「新吉は美貌な巴里女共通の幽(かす)かな寂びと品格とが今更夫人に見出され」


その解説
「夫人」は主人公(パリ在住の日本人)の隣人で、美しい未亡人です。年齢は中年を過ぎていますが、恋愛への関心は失っていません。花の都パリで恋を重ねることがパリジェンヌの「寂びと品格」をつくっているのです。恋を知らず、親が与えた男に人生をゆだねる女大学的な日本女性には持ち得ない「品格」といえます。


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明治時代から教養は女性の「品格」を高めるといわれます。人間は努力によって向上しうるという、『自助論』的な思想がそのベースになっているようです。


読書でつくる「品格」
*家庭の読書室〈1912〉〔内田魯庵〕「他人の贅沢を羨ましがったり妬んだり<略>茄子や南瓜の相場や、こんな話をするのと、新しい芸術か文学の咄をするのと、ドッチが品格が宜(よ)からう」


その解説
用例は『台湾愛国婦人』という雑誌に掲載されたエッセイです。魯庵は読書で話題を広げることが家庭の幸福につながると訴えます。現代風にいえば、読書しない妻は夫にモテない、ということです。
魯庵の説が真実かどうかはわかりません。しかし、出版界はこの視点を活かし、「読書→品格→モテ」の三段論法で書籍の売り上げ低下を食い止めるのはいかがでしょうか。


日時: 2007年07月27日 17:08
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