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参院選での自民党大敗後、安倍首相は「空気を読めない」と評されるようになり、若者言葉だったはずの「空気を読めない」が政界でも使われていることが判明しました。今回は日国第二版には立項されなかったこの語の背景について考えます。
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英語でairにあたるものを「空気」と名づけたのは江戸時代の蘭学者でした。江戸時代の用例は辞書類ばかりですが、明治時代になると次のような使われかたが広まります。
時代の「空気」の用例
*日本開化小史〔1877〜82〕〈田口卯吉〉一・二「文弱の空気の中に人と成り給ひ」
その解説
『日本開化小史』は、日本文明史をコンパクトにまとめた本で、用例は平安朝の貴人をいったものです。「文弱」は学問や芸術にふける弱々しい人のことで、インドアな文科系をけなす言葉として文武両道を重んじた時代によく用いられました。
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「空気を読めない」の「空気」に近い言葉に「雰囲気」があります。江戸時代から明治初期にかけて「雰囲気」は「空気」あるいは「大気」の同義語として用いられました。「空気」を「雰囲気」の意味で用いた用例も多数あります。
家のムードを乱す「空気」の用例
*行人〔1912〜13〕〈夏目漱石〉兄・七「些細な事から兄は能(よ)く機嫌を悪くした。さうして明るい家の中に陰気な空気を漲(みな)ぎらした」
その解説
こまごまと主人公(弟)をかわいがる母のやり方に兄は「能く機嫌を悪くした」のでした。そうなると家の「空気」も暗くなるのですが、もともと兄はえこひいきをする家族を「明るい」とは感じていなかったでしょう。
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「空気を読めない」は、なぜ「雰囲気」ではなく「空気」なのでしょうか。
理由の一つには、音の問題があるかと思われます。現代人の軽く、洋風な響きを好む傾向には、「フンイキ」よりも「クウキ」のほうが合います。
また、現代日本では学校や職場で生き抜くためには「空気」を読む能力が必要なようですから、呼吸のイメージがある「空気」が感覚的に合うのかもしれません。
集団の「空気」の用例
* 闘いへの怖れ〔1955〕〈島尾敏雄〉「島全体が悲壮なあきらめの空気に支配されていたことも手伝っている」
その解説
用例は、沖縄の「島」で行われた演芸会が夜遅くまで続いた理由をいうもの。兵士も部落民も全員玉砕するものだと「あきらめの空気に支配」されていたのでした。
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「空気を読めない」が、「わからない」や「見えない」ではなく、「読めない」というのは、「顔色を読む」「心を読む」など、推察することを「読む」という伝統に由来していると考えられます。
ある物をヒントに「読む」
*滑稽本・東海道中膝栗毛〔1802〜09〕初「彌二郎がかくしておいたる下駄を見つけてハハアよめたと、心にうなづき」
その解説
弥二郎・喜多八が五右衛門風呂に入るシーンからの用例です。はじめ喜多八は入浴法がわからなかったのですが、下駄を見つけて了解しました。
このように「ハハアよめた」で問題解決がなされればいいのですが、「空気」は自分の意見を通すためには無視せざるを得ない場合もあります。それを「意思堅固」とほめるのか、「空気が読めない」とけなすのかにその人の考えかたが表れます。
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