第三十一回 「朝まずめ今頃誰の手に魚」
インタビューで割とされがちな質問がある。
「子供の頃、マンガは誰のファンでしたか?」
手塚治虫、石ノ森章太郎、赤塚不二夫、松本零士(文中すべて敬称略)等々、諸先生のお名前をあげるのだったが、単行本を買い求め愛読していたのに、なぜかこの方の名前が出ることはなかった。
矢口高雄。
そう、『釣りキチ三平』の矢口高雄である。あのマンガは、一時期の私の文字どおりバイブルであった。あれを読んで釣りを始めたのか、釣りが好きだったから読み始めたのか、今となっては判然としないのだが。
ある意味実用書として読んでいたのだった。今思えばほとんどが小学4、5年生の[雑魚釣り]には必要のない知識だったのだが、精神的実用書というか、自分は三平だ、釣り名人だ、と思いこむ効用があった。スポーツマンガと同じ位置にあったというべきか。
そういう読み方をしていたからか、それとも代表作『釣りキチ三平』が、他作品を圧倒してあまりに巨大すぎたためか、好きな漫画家は?と問われて矢口高雄の名前が出ることはなかったのだった。少年鷹匠を主人公にした『はばたけ!太郎丸』なども思い出深いのだが。
ともあれ一人二人にはとても絞りきれないほど、漫画界に私のヒーローは数多くいた、ということである。


