立ち読みコーナー  
  【あとがき】  

 今年の春から武蔵野大学の大学院で教えるようになり、私の生活と意識が一変した。
 これまでは「どうすれば、留学生たちに日本語を、短い時間で、しかも生きた日本語を教えることができるか」が課題だった。今は「どうしたら、私の今までの経験を役立てて、大学院生たちに、良い日本語の先生になってもらえるか」が課題となった。
 小学館編集部の宍戸さんから「先生のご本で、眠っているものを生き返らせたい」というご要望があったのは、ちょうどそんな頃だ。確かに本には寿命がある。長生きする本もあれば、数年で書店の本棚から消えてしまう本もある。
 さてどの本がいいだろう。これから日本語の先生になるのに、ぜひ読んでいただきたい本、私の教室での経験を生き生きと伝えられる本、そしてこの一冊の本が目にとまった。
 1992年にジャパンタイムズから出版された『日本語教師という仕事』だ。多くの図書館の蔵書になっているためか、今も読者の方からお手紙をいただくことがある。それにもかかわらず、数年前に絶版になってしまっている本だ。

 編集者に私の気持ちが伝わったのだろう。この本は加筆修正されて、再び世に出ることになった。幸せな本だと思う。

・・(中略)・・

 書くときはいつも、私がまだ駆け出しの日本語教師の頃を思い出した。
 「他の先生の授業が見たい。ここはどんなふうに教えるのだろう」
 「誰かに聞きたい。発音指導はどんなふうにしたら効果的なのかを」
しかし、先輩たちは皆、その日の授業に忙しく「それは自分でつかむもの」と言うだけだった。だから、この本には、あのときの私が欲しかったものを、できるだけたくさん盛り込んだ。少し早く、日本語教育の世界に入った先輩から、後輩へのささやかな贈り物。
 ちょっとしたくふうがどんなに授業を楽しくするか、この本が読者の皆さんのヒントになれば、それにまさる喜びはない。
 これから、日本語教育の世界は、どんなふうに展開していくのだろう。
 それは、世界の中の日本が果たす役割と、大きく関係しているように思える。
 「日本語を習いたい」という人たちに、「言葉」だけでなく、「人間のやさしさ」を伝えられる先生がいたら、どんなに良いだろう。
一人でもそんな先生が増えることを願っている。

・・(後略)・・

2003年8月10日   蓼科にて
                             佐々木瑞枝

 

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