立ち読みコーナー  
  【前書きとしての、本書に関する解説】  

 2004 4/1 PM6:28
 新宿・歌舞伎町コマ劇場裏「ホテルケント」620号室

 この種の多くの本がそうであるように、本書に収録された原稿群は少々の時間的なシャッフルが施されている。1996年から2004年までの9年間にわたって僕が書き飛ばした(これは自嘲でも自己卑下でもなく、単に紛れもない事実だ。本書をお読み頂ければ、実感として伝わってくるだろうと思うけれども、僕はちょっとしたCD評から中編の小説まで、あらゆる原稿を弾丸もしくは落雷の様なスピードで一気に書きとばし、推敲は一切しない)既発原稿群を、担当編集者の恣意によって並べた物(僕は小学館の村井さんが提出してきたその順列に一切の変更を加えていない)総てに加筆修正を施し、総てに解説を付ける。そしてその解説は時間軸に忠実に一直線に進む。というのが本書の構成で、いつ決めたかというと、これを書きながら今思いついて、今決めた(笑)。因みにこれを書いている現在。は2004年のエイプリル・フールの午後6時28分だ(そろそろ29分になる)。

 というわけで今から、約60時間、新宿は歌舞伎町、コマ劇場裏の噴水公園(これは僕が勝手に呼んでいる物で、正式な名称は知らない)奥角にある「ホテルケント」という、かなりヤバいホテルの620号室にカンヅメに成って、本書を(弾丸の如く、落雷の如く)一気に書き上げてしまおう。というものだ。
 因みに時刻は、いちいち振り返って記している。何故か? 中国人が経営し、フロントも他の客もほとんど中国人という安ホテルのシングルルームには何と一切の時計がなく、僕の腕時計は修理中で、携帯電話は執筆中電源を切っている。その代わりに僕の背後には窓があり、その窓から巨大な時計が見えるからだ。

 窓から見える光景を正確に書けば、右手に真っ赤な高級ホテルがそびえ立ち、左には現在は廃ビルである、今は亡き「新宿リキッドルーム」があったビルのすすけた裏側がそびえ立ち、中央にはこの辺りの古い雑居ビルの裏側や屋上がぎっしりとひしめきあい、その景観はまるで5000年前の廃墟のようだ。そこに「パチンコエスパス日拓」「テレクラ(としか書いていない。本当に)」という巨大な電飾。

 そして、そうした景観を見下ろすかの如く遠くそびえ立つ「OLYMPUS OPTO DIGITAL」そして「CITIZEN」という文字が点滅する巨大な時計は、日時分、そして秒まで刻んでいるから、つまり僕はまるでストップ・ウォッチを持った教官だか神だか、とにかく巨大で偉大なる存在が背後にそびえ立ち「さあ時間までに書き上げろ 18:47:14・・・15・・・16・・・」とエコーのかかった声で秒を読み上げられながら、高速でキーパンチしている。そんなロケーションに居るわけだ。それがどんな気分かは、あなたが新宿に来て、このホテルのこの部屋に宿泊した際に、少なくとも映像的には追体験できる。カーテンさえ閉じてしまえば、何も見えなくなること。しかし閉じたばっかりに、その先に広がる世界の時の経過がかえって強く意識されること。30年ほど新宿という街で遊んできたけれども、生まれて初めて見るアングルからの光景はデジャヴュにも似てかくも新鮮、そしてかくも懐かしい物か。という事までも含め。一言で言えば、僕は今まるで、歌舞伎町の内臓を見ながらローマの市街のどこかの安ホテルに居て、世界遺産である遺跡でも眺めている気分だ。さあ始めよう。せっかくのエイプリル・フールだ、一刻も早く嘘をつかなくてはいけない。


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