立ち読みコーナー  
  【はじめに】  

 『日本国語大辞典』(第二版)の仕事に携わって、明治以降の多くの資料に目を通す機会に恵まれた。これによって、この百年余りの間に、日本語は大きな変貌を遂げてきたということを実感するようになった。
 一口に変貌といっても、言葉には語形があり、意味があり、表記がありで、いろいろな要素が含まれている。そして、時とともにその一つ一つの要素が移り変わって行く。また、新しい言葉ができたり、古い言葉が消えて行ったりする。中には一時的に使われただけですぐ姿を消すものもあり、何年かたって復活するものもある。一つの言葉でありながら、さまざまな言い方や表記が同じ時期に並んで使われていたものが、次第にある形に統一されて行くということもある。
 辞書でも、こういう変化がわかるように書かれていることが望ましいが、一語一語研究してその結果を記すという時間もなく、そのスペースもない。そこで、本書では変化してきた多くの言葉の中から、ほんの一部を選んで少し細かく記述してみることとした。
 これは辞書の補いであるとともに、ふだんなにげなく使っている言葉の背後に見られる変化の歴史に少しでも関心をもっていただければという気持ちの産物でもある。
 はじめは読み物というつもりで書き出したが、書いていくうちに証拠となる実例も多く入れたくなり、研究的な要素も加わってしまったことをお断りしておきたい。だが、引用したさまざまな実例も興味をもって読んでいただけるのではないかと思っている。
 なお巻末に平成二年末に、山梨県立文学館主催の「なまよみの甲斐の文学講座」でおこなった講演を活字化したものを添えた。今回扱った諸問題と関係の深い内容を含んでいるからである。
 本書をまとめるにあたっては『日本国語大辞典』(第二版)の編集の中心であった藤波誠治氏のお勧めによるところが大きく、編集部の菊池千佳子さんにも多大の御助力を仰いだ。
 刊行は小学館の御厚意に甘えることになった。心から感謝の意を捧げる。

 平成十六年一月                                  松井栄一


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