立ち読みコーナー  
  【はじめに】  


 どんな場所でも、それぞれにお国自慢はある。
 たとえば、静岡県民なら「ウチには富士山がある」と自慢に思うのだろう。鹿児島県民なら「西郷どん」か? 秋田県民なら「小野小町の昔から秋田は美人の宝庫よ」と言うかもしれない。  では、山口県民はどうか?
 私の出身地は山口県だ。山口県民は、まず人物については「松蔭先生」を自慢するんですね。明治維新の原動力・吉田松陰(と、その門下生たちもひっくるめて)の自慢だ。なぜか必ず「先生」を付けて呼ぶ。そして、場所については、「秋芳洞」を自慢する。山口県生まれの子供は、たいてい一度や二度は、そこへ連れて行かれたことがあると思う。  ちなみに、地上のカルスト台地が「秋吉台(あきよしだい)」で、その地下に広がる鍾乳洞が「秋芳洞(あきよしどう)」で、両者のある場所が「秋芳町(しゅうほうちょう)」。音と訓と、同音の漢字まで混在してて、ややこしい。  鍾乳洞というのは、横溝正史の小説なんかではお馴染み。たいてい男女が密会してたりする。山口県民はみんなそういう伝奇ロマンが好きなのかというと、別にそういうわけではない。 「なんといっても、東洋一の鍾乳洞なんだから」
 と自慢にしているのだ。
 生来ヘソ曲がりな私は、子供の頃から「吉田松陰が偉くても、いまの県民が偉いわけじゃないだろ」と思っていた。可愛いげのないガキですね。が、秋芳洞に関しては、「なにせ東洋一だもんな。そりゃ、凄い」とけっこう素直に受け止めていた。可愛げがないくせに、単純なガキだったのだ。だって、そう思うではないか。なんといっても東洋一なのだ。あきらかに、日本一よりもスケールが大きいのだから。
 そんな小さな郷土愛を持っていたことなど、故郷を離れ、大人になるとすっかり忘れてしまう。いや、忘れたと思っていた。だが、どこか心の底にはひっかかっていたのだろう。ある時、旅のパンフレットを見ていて、 「ん? ・・・・なんかおかしいぞ」
 と思ったのだ。
 そこにはこう書かれていた。

   沖縄県玉城村にある東洋一の鍾乳洞「玉泉洞」

 山口県出身者でなければ、この文章は読みすごしてしまうのかもしれない。だが、私はひっかかった。
 おかしいではないか。だって、東洋一は「秋芳洞」のはずだ。いつ、抜かれたんだ?
 ここで、私は推測した。
「そうか。新しい鍾乳洞が発見されたんだ」
 沖縄の本土復帰が昭和47年。そこから、沖縄県内のいろいろな場所を調べるようになった。そして、玉城村で鍾乳洞が発見された(あるいは、すでに発見はされていたが、本格的な調査が入ることになった)。その洞窟を奥へ奥へと進んでいくと、意外に大きいことが明らかになった。測ってみると、なんと山口の秋芳洞より大きいではないか。ならば、ここは東洋一だ! かくして、残念ながら我が郷土の「秋芳洞」は沖縄の「玉泉洞」に抜かれて、東洋二(そんな言い方があるかどうか知らないが)になった・・・・というストーリーだ。  ところが、そう納得して秋芳洞のホームページを確認しに行くと、こう書かれていたのだ。

   秋吉台の地下100m、その南麓に開口する東洋一の大鍾乳洞「秋芳洞」は大正十五年、 昭和天皇が皇太子の御時、本洞を御探勝になり、この名前を賜ったものです。

 おいおい、これはどういうことだ? 古い資料ではない。いま現在のホームページなのだ。
 だが、それだけではなかった。ネットで調べると、「東洋一」と呼ばれる鍾乳洞は、日本中にもっとたくさんあったのだ。

   鹿児島県・沖永良部島「昇竜洞」
   福島県「あぶくま洞」
   沖縄県・南大東島「星野洞」

 先の「秋芳洞」「玉泉洞」と合わせ、少なくともこの5つは「東洋一」「鍾乳洞」という検索でひっかかってくるのだ。日本一だって、そんなにたくさんあってはマズいだろう。ましてや東洋一なのだ。もしも、ここにあげた5つの鍾乳洞が、実は1位〜5位とランキングできたとする。だが、東洋の1位〜5位がすべて日本国内にあるものだろうか? 韓国はどうした? 中国はどうなんだ?

 けれど、問題はそんなことではなかったのだ。
 ネットで「東洋一」だけを検索してみると、YAHOO、GOOGLEでそれぞれ2万件以上もヒットしてしまうのだ! もちろん、多くはダブっているのだろう。東洋一(あずま・よういち)さんという名前だってある。が、かなりの数が「東洋一の〜」と名乗っているらしいことは推測できる。
 それにしても、だ。ジャンルはいろいろあるにせよ、世の中に東洋でナンバーワンと呼べるものが、そんなにいっぱいあるのだろうか? 繰り返して言うが、これは日本国内だけの検索結果なのだ。韓国はどうした? 中国はどうなんだ? 東洋の他の国々はどうなんだ? ・・・いや、待てよ。そもそも、その「東洋の他の国々」って、いったいどこなんだ?
 現時点で、「日本は、東洋一が東洋一多い国」と言えそうだ。それはなぜ?
 ここから私の、「東洋一」を探しての旅が始まった。

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