第 9回 燃えない「燃料」の二酸化炭素はどこへ?

 人間は太古の昔から、なにやかや燃やしながら暮らしてきた。暖を取ったり煮炊きをしたり焼き畑やったりして、それが霊長目ヒト科のぼくらを定義づける特徴だ。
薪を燃やし枯れ草を燃やし、牛糞も乾燥させて燃やし、また泥炭や石炭やコークス、鯨油、石油、さまざまなアルコール類も、大切な火のもとを提供してくれる。英語ではそれらをfuelと呼び、日本語なら「燃料」という総称になる。

 ところが20世紀中葉に、言葉のペテンにたけている勢力がfuelに狙いを定め、燃焼とは無縁の物質を偽ってnuclear fuelと名づけた。おっつけその虚偽名称の和訳も「核燃料」と決まった。

 ではウソ偽り抜きに呼べば、なにになるかというと、「核分裂性物質」、つまりfissile materialだ。核分裂性物質が功を奏するのは、核兵器で大量虐殺をはかるときだ。ウラン鉱石を掘り出して、核分裂するウラン235の割合を高め、核分裂しないウラン238を減らし、できあがった濃縮ウランを筒につめて1945年8月6日に投下したのが広島型原爆。あるいはもっと凄まじい核兵器を作るには、濃縮ウランを頑丈な圧力釜につめて核分裂の連鎖反応をじりじりやると、ウラン238が中性子をのみ込みプルトニウム239に化ける。できあがった人工核分裂性物質プルトニウムを取り出し、筒につめて1945年8月9日に投下したのが長崎型原爆。核兵器作りはプルトニウムを中心に進められ、そのために開発された頑丈な圧力釜が「原子炉」というものだ。

 この70年の流れをざっと言い表わすとこうだ。核分裂性物質を使い、より一層破壊力を孕(はら)んだ核分裂性物質を生み出し、放射能汚染を増幅させながら、世界支配の飛び道具を蓄えて保有する。

 ただ、早い段階で「核燃料」とネーミングがすりかえられ、「使用済み燃料」という名称もでっちあげられ、一般市民にとっては本質が見えにくくなった。どうしてすりかえたかといえば、市民の富を吸い取り吸い取り核開発を行なうので、カモフラージュのPRキャンペーンを張る必要があった。正直に「核分裂性物質」と呼んでいると、イメージはよろしくないし、原子炉から出てくる「核分裂生成物」も恐ろしい響きだ。

 巧妙なコピーライターたちが、温かみのある「燃料」のパッケージに包装し直して、売り込むことにした。一般市民は原子物理学に詳しくないし、原水爆のカラクリが分かっていない。「燃料」と聞けば無意識のうちに、自分たちが毎日世話になっているガスだのガソリンだの灯油だのとつながり、なんとなく有用なものかなと、勘違いする。

 燃えちゃいないというのに「燃料」、燃焼とはまるきり違う現象だというのに「燃料」、サイエンスに対する冒とくだというのになにがなんでもnuclear
fuelと呼ばわった。「原子炉」を発電機に見せかけて、軍事利用を隠す言語的スモークスクリーンが欲しかったからだ。

 権力者と核ビジネスがそうやって市民を煙に巻いた上で、今度は1980年代から大胆にも「燃料」のペテンと矛盾する新たなペテンキャンペーンを打ち出した。地球温暖化説をうまく利用して、その謳(うた)い文句は「発電時にCO2
を出さない原子力発電はクリーンエネルギー! 地球温暖化防止の有効な手段です」と。

 しかしそんなことを触れ回りたいなら、その前に「核燃料」や「使用済み燃料」や「燃料サイクル」のネーミングを改めなければならないはずだ。なにしろ二酸化炭素を出さない燃料なんてあり得ないのだから。ま、目にあまる自己矛盾を抱えてしまっても、恥を知らないのが核ビジネスの最大の特徴だが。

 もちろん「原子力発電はCO2 を出さない」というキャッチコピーも、イカサマに決まっている。ウラン鉱石を掘り出すときも、ウランの濃縮と加工をやるときも、原子炉を作るときも原発建設工事でも、大量の二酸化炭素を吐き出す。けれど、燃料ではない「燃料棒」が装填(そうてん)され、核分裂の熱で湯を沸かしてタービンを回している間のみ、二酸化炭素はあまり出ないのだ。原子力広告をあれこれ丁寧に点検すると、必ず「発電時に」という四文字が添えられていることに気づく。要するに、実際は大量に排出するが時間軸を狡猾(こうかつ)に区切って「発電時にCO2
を出さない」といえば、法律上、偽り広告の責任を問われない計算だ。

 いったん「発電時」が済むと、原子炉から取り出される核分裂生成物は「使用済み」という言葉に包まれるが、本当は核兵器の原料であり、たとえ転用されないにしても、冷やしながら10万年ばかり保管しなければならない。そんな保管期間にどのくらいの二酸化炭素が排出されるか、人間の計算が及ばない次元だ。

 それに加えて、福島第一原子力発電所のメルトダウン対応にともない、どれほどの二酸化炭素を撒き散らしたのかも、だれも把握していないようだ。自衛隊と警察と消防隊員と米軍も出動して、ヘリコプター、大型トラック、放水車、各種の建設重機などなんでも使い、非常電源に至ってもCO2
を吐きまくってきた。

 原発を売り込むために重宝していた間は、やたらとCO2 を悪魔みたいに扱い「大変だ! 異常気象が増えて地球は危ない!」と恐怖を煽(あお)ったが、PRの道具として使えない状況になった途端、地球温暖化騒ぎは下火になり、フクシマのCO
2 排出に政府はまったく触れもしない。これから延々とつづくであろう無駄な「除染作業」も、けっこうな二酸化炭素排出をともなうはずなのに。

炎の画像

日本原燃の広告

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放水車で水をかけられる福島原発4号機

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