第37回 「ご説明させていただく」は誤用?

 お中元の季節、こんな文面の添え状とともに親しい方から贈り物をいただいたという方もあるのではないでしょうか。

  夏のご挨拶のしるしまでに、ほんの気持ちばかりですが、お送りさせていただきます。

 この「お送りさせていただく」という表現、二重敬語であり誤用なのではないかと迷う人が多いと聞きます。では、そもそも「二重敬語」とはなんであるのか、再度見直しながら先の表現について考えてみましょう。

 「二重敬語」は、平成19年の文化審議会答申「敬語の指針」では次のように解説されています。

一つの語について,同じ種類の敬語を二重に使ったものを「二重敬語」という。たとえば、「お読みになられる」は、「読む」を「お読みになる」と尊敬語にした上で,更に尊敬語の「…れる」を加えたもので,二重敬語である。
「二重敬語」は,一般に適切ではないとされている。ただし,語によっては,習慣として定着しているものもある。

[習慣として定着している二重敬語の例]
(尊敬語) お召し上がりになる,お見えになる
(謙譲語Ⅰ)お伺いする,お伺いいたす,お伺い申し上げる

 「二重敬語」は、過剰な感じや耳障りな感じを与えるので注意が必要ですが、上記のように一部の言葉は、慣用として使われ、間違いではないとされています。また、「敬語の指針」では、以下のような言葉も二重敬語ではなく、正しい表現であるとしています。(一部略)

二つ(以上)の語をそれぞれ敬語にして,接続助詞「て」でつなげたものは,上で言う「二重敬語」ではない。このようなものを,ここでは「敬語連結」と呼ぶことにする。例えば,「お読みになっていらっしゃる」は,「読んでいる」の「読む」を「お読みになる」に,「いる」を「いらっしゃる」にしてつなげたものである。つまり,「読む」「いる」という二つの語をそれぞれ別々に敬語(この場合は尊敬語)にしてつなげたものなので,「二重敬語」には当たらず,「敬語連結」に当たる。「敬語連結」は,多少の冗長感が生じる場合もあるが,個々の敬語の使い方が適切であり,かつ敬語同士の結び付きに意味的な不合理がない限りは,基本的に許容されるものである。

[許容される敬語連結の例]
・お読みになっていらっしゃる
・お読みになってくださる
・お読みになっていただく
・御案内してさしあげる

  上記の『敬語の指針』をふまえて、先の「お送りさせていただく」を考えてみましょう。「お送りさせていただく」とは、基本に戻って考えますと以下のような語形です。

   

  つまり、「お送りさせていただく」は、1つの語に2つの敬語が重ねられているわけではなく、「お送りする」と「(さ)せてもらう」という別の言葉が結びついてできあがっている言葉であり、「送る」を「お送りする」とし、「(さ)せてもらう」を「(さ)せていただく」のように、それぞれの語を謙譲語にした形であるため、二重敬語ではなく正しい敬語なのだといえます。
  同様の理由で、「ご説明させていただく」なども誤用と言われることがあるようですが、こちらも正しい敬語です。「ご説明させていただく」というのは、「説明させていただく」の頭に「ご」を付けた言葉ではなく、「ご説明する」に、「(さ)せてもらう」の謙譲語である「(さ)せていただく」が続いたもので、敬語の連結ととらえられます。「ご説明する」「お送りする」の「お(ご)」は、いずれもよく使われる謙譲語「お(ご)~する」の「お(ご)」であることがわかります。
 ただし、「敬語の指針」にも、「敬語連結」は「多少の冗長感が生じる場合もある」とあるように、「送らせていただく」「説明させていただく」「読んでいらっしゃる」という表現のほうがすっきりしていると感じたり、または「説明いたします」で十分と感じたりすることもあるでしょう。人によって感じ方が違い、また語によって「お(ご)」がなじまない言葉もあるため、ひとくちに適否を断定できない場合もありますが、二重敬語と、敬語の連結を混同しないように、うまく区別して使いたいものです。
 また、慣習として定着し問題のない語として「お召し上がりになる」「お見えになる」「お伺いする」「お伺いいたす」「お伺い申し上げる」などがよく挙げられると言いましたが、ほかにも手紙文で用いる「お風邪を召されませんように」や「どうぞコートをお召しになってください」などの表現も、「召す」がすでに「(風邪を)ひく」や「着る」の尊敬語になっているのに、「~れる」や「お(ご)~になる」の尊敬表現が加わった形です。こちらも慣習としてよく使われており、正しい表現と考えられるでしょう。

   

第37回 「ご説明させていただく」は誤用?
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