第 5回 鹿児島県人は「黒板消し」を「ラーフル」という

 チョークで書いた字を消すときに使うのは「黒板消し」か「黒板拭き」なのかと話題になったことがある。そもそも黒板は「消す」のか「拭く」のかという議論にまで発展して盛り上がったものだ。個人的には、「拭く」と言えば黒板に付着したチョークを取り去って黒板そのものをきれいにするし、「消す」と言えば黒板に書かれた文字や図をなくするという感じがする。拭いた後は黒板がきれいになっているし、消した後は再び字が書ける状態になっているという感覚だ。

 さて、用具の名称に戻ると、一般には「黒板消し」が多数派のようだ。今回の一枚:クリックすると大きくなりますしかし、『日本国語大辞典』には「黒板消し」ではなく「黒板拭き」が見出し語として採用されている。

 ところで、鹿児島ではこの「黒板消し」を「ラーフル」と呼んでいるのだ。宮崎や愛媛にも広がっている。地域限定の言い方でありながらカタカナ語であるがゆえに方言とは意識されにくいようだ。まして学校で普通に使われていることばとなれば誰もが共通語と信じて疑うまい。

 このラーフル、実は事務用品の業界では一般名称として使われていて、どのメーカーのカタログを見ても共通語のような顔をして登場するのだ。ちなみに教室に置かれている黒板消しの裏側には「ダストレスラーフル」と書かれているではないか(写真1)。製造販売元である(株)日本理化学工業のカタログで確認すると、「粉の飛散を抑えた黒板消し」というネーミングのようである。脇にはご丁寧に
“Dustless Rafel” とのアルファベット表記もある。一見、英文表示が併記されているのかと納得してしまいそうだが、英語には「rafel」という単語は無いのである。「rafel」という単語はオランダ語に存在していて「ボロ布」を意味するらしい。これが、巷で有力な「ラーフル」のオランダ語語源説を支えているのだ。

 さらに教室の隅にたたずんでいる電動式クリーナーの側面に目を移すと、何やら横文字が並んでいるではないか(写真2)。“Electric Raffle Cleaner”とある。こちらの「raffle」はまさしく英語の単語で「くず」を意味するようだ。黒板消しに付着したチョークのくずを掃除するためのクリーナーということだろうか。ただ、メーカーのカタログ類には「ラーフルクリーナー(黒板消しクリーナー)」「ラーフルクリーナー(黒板拭きクリーナー)」などと表示されていて、カタカナ表記の「ラーフル」と英文表記の「raffle=くず」が対応していないからややこしい。もしかしたらカタカナ語の「ラーフル」にアルファベットを当てただけなのかもしれない。

 いずれにしても、業界用語として定着していることばがなぜ鹿児島で一般名称として使われているのかは不思議である。

    
    
写真1
写真1    
写真2
写真2    
    
    
                   
第 5回 鹿児島県人は「黒板消し」を「ラーフル」という