第 6回 ところ変われば味も呼び名も変わる

 大阪から上京して来た友人と居酒屋に行ったときのことである。注文した肉じゃがが運ばれてくるやいなや中をのぞき込み、「なんやこれ、肉ちゃうやん、豚やんか!」と叫んだのである。頭をよぎるのは関西の公式「肉=牛肉」。この公式を当てはめると、豚肉の入った中華まんじゅうも「肉まん」とは呼んでもらえない。あくまでも「ぶたまん」なのである。そう言えば、お好み焼き屋のメニューにも「肉天、肉玉」と並んで「豚天、豚玉」と書かれている。カレーの肉も、肉うどんの肉も牛肉が標準なのである。牛丼屋が全国に広がる以前は、今回の一枚:クリックすると大きくなりますどんぶりご飯の上に牛肉をのせたものを「肉丼」と呼んでいたと聞けばまさに「肉=牛肉」は鉄板の公式である。

 江戸、上方と並び称される時代から東京と大阪に代表される東西の違いはしばしばクローズアップされてきた。

 「食い倒れ」の名にかけて、チャーハンは焼きめし、串揚げは串カツ、炊き込みご飯はかやくご飯、今川焼きは回転焼き、メンチカツはミンチカツ、かけうどんは素うどん…と対決姿勢はとどまるところを知らない。東京の「そば・うどん」の看板も関西では「うどん・そば」と並びが入れ替わる。いかにも東のそば文化と西のうどん文化の対立の象徴だ。

 実は古典落語の演目「時そば」も、もとは上方落語の「時うどん」が原型だったとくれば「うどん VS そば」の対立は筋金入りだ。店内での注文にも注意が欠かせない。大阪では、甘辛く煮た油揚げがうどんにのっていれば「きつね」、そばにのっていれば「たぬき」に決まっていると言われれば何か化かされたような気になってくる。ちなみに味付けしていない揚げを細かく刻んで具にしたものは、うどんもそばも「きざみ」と呼ぶからややこしい。さらに、京都の「たぬき」は、刻んだ油揚げをうどんにのせ、生姜仕立てのあんかけのつゆをかけたものをさすというから複雑だ。

 東京の「たぬき」は、天ぷらの種を抜いたもの(コロモだけ)を「種抜き」と呼び、それが縮まって「たぬき」になったらしい。関西では「揚げ玉」などとありがたい名前は通用しない。その名もズバリ「天かす」なのである。もともと天ぷらを揚げた時の副産物であるから、大阪ではサービスとして提供され、入れ放題なのだ。その「かす」をいれた「たぬき」をメニューに加えたのは東京が発祥とくれば首都と言えども肩身が狭くなる。

 麺のつゆは関東の「鰹だし+濃い口醤油」に対抗して「昆布だし+薄口醤油」。日清食品の「どん兵衛」、も東洋水産の「マルちゃん」も東西でつゆの味を変えて販売しているというから驚きだ。
恐るべし関西!

第 6回 ところ変われば味も呼び名も変わる