第11回 打撲による内出血のために皮膚が変色した部分を何と呼ぶか

 先日、机の角に脛を強打し、その猛烈な痛みとともに学生時代の一場面がよみがえってきた。友人たちと談笑していた時のことである。「ぶつけたところが青なじみになっちゃったよ」と言った途端、話題が中断し、周りからは「?」の表情を浮かべた顔が接近してきたのである。首都圏で生活していながら日常的に使っていることばの中に、共通語ではないものが存在していることを自覚した瞬間であった。このアオナジミが千葉と今回の一枚:クリックすると大きくなります茨城だけで通用する言い方だと知ったのは後になってからのことである。当時は自分のことばが通じないという驚きだけで終わってしまったが、冷静に分析すれば、生まれつき皮膚が変色している部分は「あざ」であって、アオナジミとは別ものである。強打して内出血による皮膚の変色がアオナジミなのである。両者を区別せずにアザと呼んでいる共通語以上に、意味分野が明解ではないかと我が方言を誇りたくなってしまう。全国を見渡すと、2種類の「あざ」はもちろん、「ほくろ」とさえ呼び方を区別しない地域もあるから驚きだ。

 さて、なんでアオナジミと言うことばが生まれたのか気になってしまうが、変色しているわけだから、周りに「馴染む」というのは矛盾している。変色した色が似ているところから「青菜+染み」との語源説もあるようだが定かではない。

 この打撲によって生じた「あざ」については、各地で、色の変わった様子に着目した言い方が使われているようだ。愛知、岐阜、和歌山、高知では「青にえ」、さらに濃い色合いで「黒にえ」と表現するバージョンも存在するらしい。そのような状態になることは「青にえる」「黒にえる」となる。関西では、「死ぬ」と表現する地域も多い。皮膚がダメージを受けた実感のこもった言い方である。岩手、宮城、熊本では「クロヂ(黒血)」と言うが、東北と九州という南北に離れた地域で同じことばが使われているのは興味深い。方言学の世界では、かつて都のあった近畿圏で使われていたことばが周辺へ広がっていった古い姿の名残だと解釈されることがある。

 最近よく耳にするアオタンは、もともと北海道の若者が使い始めた新しい方言が全国に広がったものである。

 こうした身体の変調を表すことばは子供の頃から使っているためか、共通語と信じて疑わないことが多い。中には親の出身地の影響を強く受けているケースもあるようだ。

第11回 打撲による内出血のために皮膚が変色した部分を何と呼ぶか