第19回 「腹が強い」「お腹が大きい」「お腹がふとい」???「満腹」を表現する方言

 「食欲の秋」という甘いことばの反動が現れる頃である。毎日体重計を見つめて考え込んでいる同志も多いのではなかろうか。忘年会シーズンも間近で、もはや改善する余裕もない。

 さて、先日、秋田へ行って飲食店で良く耳にしたのが「腹つえー!」「腹っつぃ!」。今回の一枚:クリックすると大きくなります

 「腹が強い」といっても腹筋を鍛えているわけではない。どんなものを食べても絶対にお腹を壊さない強靭な胃袋を持っているわけでもない。秋田では「うーたくさん食ったー。腹つえ~」などと言う。青森でも使うようだが、満腹になって苦しい状態を表現しているのだ。風船をパンパンに膨らませてもなかなか割れないときに「強い!」というように、お腹の張りを強く実感しているようだが、そこまで食べ過ぎなくてもと思う。

 食べ過ぎて動けないほど苦しいとき、兵庫や三重では「ずつない」という。他の関西圏や四国でも使う人はいるようだ。『日本国語大辞典』を引いてみると、「術無し」が元の形で、「ずつなし」の形も平安時代から用例が見られる。「なすすべがない」が原義で、もとは精神的な苦しさを表す古語であったが、次第に身体的な苦しさの意味へも広がり、方言の世界では満腹時の苦しい状態で使われることが多くなったようである。江戸時代には「気+術無し」で、「心苦しい」「恐縮だ」「申し訳ない」などの意味を表す「きじゅつない」「きずつない」という言い方が登場する。今でも関西圏には残っており、京都の女性から「なんやきずつないわぁ。かんにんえ。」などと言われようものなら何でも許してしまいそうである。

 満腹の話に戻ると、富山では、お腹がいっぱいで苦しいとき「腹うい」と言う。これも「つらい」意味を表す「憂し」に由来する古語の名残りだ。

 香川、徳島では、満腹の状態を「お腹がおきる」という。空腹時に眠っていた胃腸が動き出すという民間語源もあるが…。

 山口では「お腹がふとる」。食事に誘った女性に「お腹ふとった?」と聞いて失敗したという例も。中国、四国地方では「お腹がふとい」という地域もある。決して「太っ腹」ということではない。

 勘違いといえば、大阪を中心とした関西圏の「お腹が大きい」。関西の女性が「お腹が大きなってもた」と言っても「妊娠してしまった」わけではない。ましてや「デブになってしまった」という意味ではないのである。

第19回 「腹が強い」「お腹が大きい」「お腹がふとい」???「満腹」を表現する方言