第30回「ご出席されますか?」は正しい?
 

 年末年始はパーティーや忘年会などの会合に出る予定も多い時期かと存じます。そんな中、目上の人に出席の確認をするということもよくあるものですが、このような場面で次のような言葉を時々耳にします。

 「(先生は)ご出席されますか」

 さて、この表現は正しいのでしょうか。これは尊敬表現としては認められてはおらず誤用とされています。誤用とされる理由にはいくつかの説がありますが、次のようなことがよく挙げられます。文化庁の『言葉に関する問答集-総集編』にくわしく書かれていますので、抜粋してみましょう。

問 「御訪問される」という言い方は正しいか について

答 正しい尊敬の言い方としては「訪問される」「御訪問になる」「御訪問なさる」と言うべきである。つまり、現代敬語の尊敬表現としては「…サレル」「ゴ(オ)…ニナル」「ゴ(オ)…ナサル」という言い方が、正しい型として、伝統的に使われているのであって、「ゴ(オ)…サレル」というパターンは、戦後になって現れてきた言い方と思われる。
(中略)それでは、なぜ「ゴ(オ)…サレル」や「オ…サレル」という言い方が誤りになるのだろうか。「ゴ(オ)…サレル」の「レル」はもちろん尊敬の意を表す助動詞である。それを取り除くと「ゴ(オ)…スル」という形になる。ところが、この形は、元来
・両陛下をお迎えする。
・お荷物をお預かりしましょう。
のように、自分の動作を表す語に付けてその動作の及ぶ相手を間接的に尊敬する働き-つまり、謙譲語としての働きを持つ表現である。だから「ゴ(オ)…スル」の「…」の部分に、尊敬すべき人の動作を示す動詞は、もともと入りにくいはずである。したがって、「ゴ(オ)…スル」という謙譲語のパターンの下に尊敬の「レル」を付けること自体おかしいという解釈に基づくからである。(以下略)

 「ご出席される」が誤用とされるいちばんの理由は、上記のように「お(ご)~する」(例 お知らせする、ご訪問する)は謙譲語の型であるため、そこに尊敬語「れる」を付けても尊敬表現にはならないということでしょう。ほかにも、先の『言葉に関する問答集』では、「お歩き」という和語との比較を挙げて、「お歩きされる」という言い方はないため、同様に漢語の「御訪問される」も表現としてどうも落ち着かないということになる、とも説明されています。
 この場合、正しい尊敬表現は、「出席されますか」「ご出席になりますか」「ご出席なさいますか」などの言い方になります。では、これらを比べてみた場合、どのような違いがあるのでしょう。表現としてはいずれも正しいのですが、比較すると、おそらく「出席されますか」よりも「ご出席になりますか」「ご出席なさいますか」の表現のほうがより丁寧と感じる人が多いのではないでしょうか。これは、尊敬の接頭語「ご」の働きによるところもありますが、もうひとつ言えることは「出席される」のような「れる(られる)」型の敬語よりも「お(ご)~になる」や「お(ご)~なさる」型の敬語のほうが、敬意も高いうえに言葉としても落ち着くということがあるのではないかと感じます。

 また、「れる(られる)」型の敬語は、尊敬語であっても受け身と区別がつかない言葉もあるため、その点も注意が必要です。たとえば「先生は相談された」などは、「先生が相談を受けた」という受け身なのか、「先生が相談した」意の尊敬語なのか、意味を取り違えてしまいそうです。ほかにも次に挙げるような尊敬表現も、「れる(られる)」型の表現を使うと、受け身と混同しやすいため、「お(ご)~になる」「お(ご)~なさる」型や他の尊敬表現に言いかえるほうが誤解を招かずにすみます。
  (例)
  先生は(賞を)取られた  → 先生は(賞を)お取りになった
  先生は笑われた      → 先生はお笑いになった・笑っていらっしゃった
  先生は叱られた      → 先生はお叱りになった
  先生は食べられた     → 先生は召し上がった・お召し上がりになった

 このように、日常よく使われる動詞を「れる(られる)」型の敬語から、ときには「お(ご)~になる(なさる)」などの敬語に言い換えてみるというのも、より好ましい敬語を使うコツとも言えるでしょう。

   
井上明美プロフィール
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