第47回 秋を告げる松虫・鈴虫の鳴き声は?
残暑に汗を流す毎日である。昼間はまだまだ蝉(せみ)がにぎやかである。夜になると虫の音がちらほら聞こえるが、今年の猛暑はなかなか秋の訪れを感じさせてくれない。
道灌山からは江戸が一望でき、筑波山(つくばさん)まで望めたという。月明かりに照らされながら、あるいは漆黒(しっこく)の闇がひろがる中で、江戸の街の夜の明かりがちらほらと点在し浮き出す光景を見ながら、そちこちから高らかに響く虫の音に耳を傾けるのは、風流人の雅趣を楽しむ極みであったろう。佐原鞠塢(さはらきくう)が文人たちの協力を得て造った向島百花園(むこうじまひゃっかえん)でも、虫聴きは行われていた。 |
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道灌山に虫聴きに訪れた人々。右には、ゴザを敷いて虫聴きに興じようとする男たち。夕日を眺めたり酒をくみ交わしたりしている。左はその連れか、虫かごを持った子どもを連れた女性たち。(『江戸名所図会』より) |
喜多村信節…1783?~1856。江戸後期の国学者・考証学者。『嬉遊笑覧』は、文政13年(1830)成立の随筆集。江戸の風俗習慣、歌舞音曲などを中心に集めたもの。 『江戸名所図会』…江戸の絵入り地誌。7巻20冊。斎藤幸雄・幸孝・幸成(月岑〈げっしん〉)の親子三代で完成。絵は、長谷川雪旦・雪堤。寛政から天保にいたる江戸やその近郊の名所が収録されている。 向島百花園…今も東京都墨田区東向島にある庭園。文化元年(1804)、骨董商・佐原鞠塢が開いた3千坪にもおよぶ花園。命名は酒井抱一(ほういつ)。徳川家斉(いえなり)や家慶(いえよし)も来訪している。 |
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