第 3回「つまらないもの」とは 1

第 3回「つまらないもの」とは 1

 5月の第2日曜日は母の日でしたね。日頃の感謝の気持ちを込めて、お母さんにプレゼントを贈った方も多いのではないでしょうか。
 ところで、皆さんは、人に贈り物や手土産などを渡すときに、どんな言葉を使いますか?
「よろしければ召し上がってください」「きっとお似合いになるかと思いまして」などのほか、「つまらないものですが、お気に召していただければ…」などと言うことはないでしょうか。
 この「つまらないものですが」という言い方について、先日講義の場でこんな質問を受けました。
「人に物を贈る際に『つまらないものですが』と言うのは間違った言葉遣いだと聞いたのですが、誤用なのでしょうか」という内容でした。つまり「なぜ、わざわざつまらないものを贈るのか」というわけです。確かに「つまらないもの」という部分だけをとらえますと、疑問に思う人や、また外国人には誤解を受けるという話はよく聞きます。しかし、この表現の意味は、決して「何の良いところもないくだらないものをあなたに贈る」という意味ではありませんね。
 似た表現として「何もございませんが」などもよく用いられる言葉です。この言葉については、『日本人の言語表現』(金田一春彦著)の中に次のように書かれています。「『何もございませんが召し上がってください』も、理屈を言うと、何もないものがどうして食べられるかということになるが『賞味していただけるようなものは』という意味が省かれたのだ」とあります。
 このように考えますと、「何もございませんが」は、「(あなたに賞美いただけるようなものは)何もございませんが」という意で、それと同様に「つまらないものですが」も「(あなたがふだん召し上がっていらっしゃるような、あるいは身に着けていらっしゃるようなものに比べたら)つまらないものですが…」というように、(  )の部分を省略しているような気持ちで私たちは用いていると考えられます。
 自分のことを偉そうに自慢したりせず、自分側のものは低める、控えめに表現するという謙遜の心理が働いているという点で、この「つまらないものですが」は、謙譲語の仲間であり、敬語的な表現のひとつと言ってもいいのではないでしょうか。

第 3回「つまらないもの」とは 1




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