第 8回 “模造紙”の呼び方で出身地がわかる

第 8回 “模造紙”の呼び方で出身地がわかる

 “模造紙”
 れっきとした紙なのになんとも怪しげなネーミングである。諸々の情報によれば、「明治中期に、大蔵省印刷局が製造した局紙をまねた紙がオーストリアで製造され、大正初期になってそれをさらに日本で模して作ったために模造紙と呼ばれるようになった」という説が有力のようである。本家なのに“模造紙”とは肩身が狭いものだ。「模造した紙」では呼び名とその物とが結びつきにくいためであろうか、この紙にはオーバン今回の一枚:クリックすると大きくなりますシ、タイヨーシ、ガンピ、ビーシ、トリノコヨーシ、ヒロヨーシ、などなど各地でさまざまな呼び方が存在するのである。

 オーバンシは山形、ヒロヨーシは長崎、熊本で使われる呼び方だ。いずれも「大判紙」、「広用紙」と大きさに由来するネーミングである。

 タイヨーシは新潟県人が東京で通じないことばの代表格として位置づける呼び方だ。やはり語源は大きさに由来する「大用紙」。「大」を濁らずにタイヨーシと発音しているのである。

 ガンピもそのことばを口にしただけで富山県出身であることを見破られる独特の呼び方だ。ガンピは、ジンチョウゲ科の落葉低木「雁皮」の繊維を漉いた良質の和紙「雁皮紙」の省略形。室町時代から使われている由緒ある紙だ。本来は和紙であるが「良質の紙」という点が模造紙のネーミングとして使われたらしい。

 雁皮やミツマタを主材料とした上質の和紙には「鳥の子紙」もある。和紙である「鳥の子紙」に対抗して「洋紙」であることを特徴付けたネーミングがトリノコヨーシだ。香川、愛媛、沖縄では多くの人が模造紙をそう呼ぶ。洋紙が普及してからは「鳥の子用紙」と認識されているようだ。

 岐阜、愛知限定の方言がビーシ。用紙サイズがB1判に近いことに由来するとの説と、光沢のある「A模造紙」に対するつやけしの「B模造紙」が略されたという説とが対立する。地元の文具店ではどうも「B模造紙」説が有力らしい。

 いずれもの呼び方も、「模造した紙」よりははるかに納得のいくネーミングと言えそうだ。

第 8回 “模造紙”の呼び方で出身地がわかる




    


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