第15回 「補助輪付き自転車」もところ変われば呼び名も変わる

第15回 「補助輪付き自転車」もところ変われば呼び名も変わる

 関西の大型スーパーをぶらぶらしていた時のことである。自転車売り場を通りかかると、「コマ付き」という表示が目に留まった。仮面ライダーの乗り物に似せた子供用自転車かと思いきや、その表示の下には補助輪付き自転車が数台並んでいたのである。まだカメラを持ち歩く習慣のなかったころの話で、証拠写真が無いのがいささか残念である今回の一枚:クリックすると大きくなります

 共通語では「補助輪付き自転車」とか「補助輪付き」「補助付き」などと堅苦しい言い方しかできないが、コマツキとなれば小さな子供にも馴染みやすい。練習を重ねると、「コマ無し乗れるんやぁ」などと大人たちに感心されるのである。コマツキを使う地域は、大阪、奈良、和歌山、兵庫を中心とした関西圏だ。隣接する岡山や香川、徳島にも広がっているらしい。「車輪」のことをコマという地域とほぼ一致する。同じ関西圏でも、京都、滋賀ではタマツキとも呼ばれている。なお、香川では、複合語のタスケゴマツキが生まれたり、そこから後部要素のゴマツキが独立したりと変化が激しい。

 鹿児島ではハマツキ。ハマは車輪の意味の方言だ。なんと共通語のお膝元近く、栃木、埼玉でもハマツキ、ハマナシと言うらしい。確かに、『埼玉県方言辞典』には「ハマ」が「車輪」の意味で記載されているのだ。キャスター付きのキャビネットまでハマツキと呼んでいたという輩もいるようだ。

 三重のワンタツキは聞きなれないことばだが、ワンタは「輪」を意味する三重県の方言形として『日本方言大辞典』にも載録されている。

 愛知、岐阜ではワッカツキだが、このあたりでは若者を中心に自転車本体をケッタ、ケッタマシンと呼び、存在感を誇示している。

 広島、山口のコロツキは、地理的に離れた静岡にも飛び火している。

 ゴロツキは山梨独自の呼び名であるが、子供の乗り物にしては何やらぶっそうである。

 いずれにしても、西日本では「車輪が付いている」という発想法による呼び名が多い。「“補助”輪」ではないという主張が感じられるのである。ところがこの車輪、東日本ではあくまで補助的な扱いのせいか、西日本のさまざまな言い方が箱根の山を越えるのは困難だったようだ。

第15回 「補助輪付き自転車」もところ変われば呼び名も変わる




    


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