第28回 「寄りかかる」の意味を表す方言

第28回 「寄りかかる」の意味を表す方言

 「すがらないでくださ~い!」

 静まりかえった博物館に響く女性の声。山口まで来て痴漢行為の現場に遭遇かと緊張気味になるが、周囲は平然としている。怪しげな男の姿も見当たらない。どうもガラスケースに寄りかかっていた中年女性が係員に注意を受けたらしいという今回の一枚:クリックすると大きくなりますことだった。状況を説明されてものみ込めない人が多いことだろう。実はこの「すがる」、山口や島根では、「(柱や壁に)もたれかかる、寄りかかる」という意味で使われるのだ。

 筆者自身、共通語の「すがる」の本来の意味は、「情けにすがる」、「厚意にすがる」のように、「助力を求めて頼む」という意味で、「杖にすがる」のような使い方は比喩(ひゆ)的な用法だと思っていた。しかし、『日本国語大辞典』によれば、この意味が登場するのは鎌倉時代からで、「頼みとしてしっかりとつかまる。」という意味の方が古く、平安時代から用例が現れるとのことである。

 しかし、「手すりにすがって歩く」ときの姿勢は、体の前方向に力を預けているが、山口、島根の「すがる」は、壁や柱に向かって後ろ方向に背中を寄りかからせている点で、共通語の用法とは違いがあるようだ。

 老人ホームなどでは、「壁にすがって楽にしてください」という介護士の声が日常的に聞かれそうである。

 北海道と北陸地方では「よしかかる」。「壁によしかかって座る。」のように使う。若年層でも方言と気づいていない人が多いが、『万葉集』に用例が現れる「寄さる」に由来する表現というから驚きだ。

 九州では「なんかかる」。九州全域で使われるようだが、使用頻度は地域によって異なるようだ。熊本では「ねんかかる」ともいう。

 博多の女性から「なんかかってよかとぉ?」などと言われたら、二つ返事でOKしてしまいそうである。

第28回 「寄りかかる」の意味を表す方言




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