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第4回 タイムマシンで100年前の図書館へ
2015年4月20日 山根一眞

「すごい図」続出! アートを超えた美しさ

 写真は、光の反射をとらえる。そのためどうしても影が出る。同じモノの同じ部分を撮っても、見え方が異なる。現実の世界で私たちが見ているのもそういうモノの姿で、写真はそれを画像化しているのだから(「写」+「真」=真実を写す)。
 ところがこの骨董百科事典の時代の画像は、光の当たり具合をすべて無視して、モノの形や姿を徹底して忠実に描いているのです。画家が描く絵画は光をいかにうまく表現するかの世界だが、こちらは徹底して光を無視して、あからさまにモノの姿、形を表現している。機械であれば、設計図に近い。画家の絵のようなアートではないが、アートを超えた美しさがあり、とっても感動しちゃうのです。
こんな100年以上前のバイクの図には、ほれぼれします。 
 欧米の人たちは、こういう古い本の図(リトグラフ)を切り取って額に入れて飾るということをよくやっていますね。
 貴重本なのに、文字は捨てちゃって図だけを販売している業者も多いのです(そのおかげで私は憧れ続けていた価格1000万円超のオランダの貴重資料本のもっともほしかった図版の1ページのみを安く買ったこともあります)。
 ということを思い出して110年前の『メーヤーズ百科事典』のトルーヴェの羽ばたき飛行機の図のようなものがネット上であるかどうか調べてみたところ、あれま、この百科事典のこのページをスキャンしデジタル化し、プリントとして売っている業者が多々いました(2000~3000円ですが)。
 つまり、アートではなかった古図が、今や、写真や絵画とは異なるアートとしての商品価値がある、ということなんでしょう。
 わが『メーヤーズ百科事典』は110年を経てぼろぼろ。
 革の背表紙が落ちそうになっている巻も多々。しかし全20巻には同じように美しい図がごっそりなので、それだけ切り取り綴じれば「超貴重図版集」になりそうだ。
 きっと、さらにすごい図があるんじゃないかと全20巻を必死にくっていたところ、何やら2つ折にしたページがあるので広げてみて「きゃーっ!」、とんでもないものが入っていた。
 それは、カラー刷りのグーテンベルグ聖書の1ページだった。
40年以上気づかなかった「グーテンベルグ聖書」の2つ折大判のカラーページ。印刷による本の第1号で、これによって「本」という文化が一般化し、キリスト教が一気に普及したというグレート文化遺産。大サイズでご覧いただけないのが残念なほど美しい。 
 これ、写真ではなく、この百科事典のために模写して刷った、いわば精密版画だった。写真ではないので「金」のインクがのっているのでキラキラ。唖然です。この百科事典が我が書斎に入って40年ほどになるのだが、これには気づきませんでした(額装して飾ろうかな)。
「グーテンベルグ聖書」の図の拡大。金色がすてきなのです。
 そうか、こういうカラーの超美しい図も混じっていたんだと思い、さらに全20巻をひっくり返し始めてしまった。
 ありますねぇ、ほれぼれする図が。やはり、カラー写真では描けない手描き絵のすてきな世界が多々で、ご紹介しきれないのが残念です。
甲虫のページ。こういう生物図が切り取られて額絵にされることが多い。絵はいささか変色して黄ばんでいたので、スキャンの上、画像処理をしてきれいに仕上げています。 
 と、喜んでいてはいけない。これは百科事典。記述も大事です。
 ところが、その記述を読むのが大変なのです。
 本文の印刷に使われているのは、ドイツ語の古いクラシックフォント。かつて中世に使われていた「フラクトゥール」というやつなのだ。大学時代にドイツ語を学んでいるので、かつてはこれがまぁまぁ読めたのだが、今となってはしんどいです。大学時代には「花文字」とか呼んでいたと思うが「ひげ文字」とか「亀甲文字」という呼称もある。
ドイツ語の古いフォント、フラクトゥール。上・アルファベット全文字と識別しにくい文字(青い罫で囲んだ10文字)、下・百科事典のページ。図版・山根一眞
 「B」と「V」、「I」「J」、「M」と「W」などの識別も難しいので、日々読み慣れていないといけない。これから、気合を入れて読むしかないなと思いつつ、そうだ、本連載でこれまでとりあげてきた「図書館」の項目をこの百科事典で調べてみることにした。
 そこでまた出会ったのが、図版ページだった。
第4回 タイムマシンで100年前の図書館へ
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著者プロフィール
山根 一眞(やまねかずま)
 ノンフィクション作家・獨協大学特任教授
 1947年、東京生まれ。獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒。20代からジャーナリズムの仕事を開始。先端科学技術や情報分野、アマゾン環境問題など広いテーマで「謎」を追い求めてきた。NHK総合テレビでキャスターを7年こなし、北九州博覧祭では「ものつくりメタルカラー館」の、愛・地球博では愛知県の総合プロデューサーをつとめた。2009年から母校で経済学部特任教授として環境学や宇宙・深海、生物多様性などをテーマに教鞭もとっている。3.11で壊滅した三陸漁村・大指の支援活動も続けている。主な著書に単行本と文庫本25冊を刊行した「Made in Japan」を担うエンジニアたちとの対談『メタルカラーの時代』シリーズ(小学館)、『環業革命』(講談社)、『小惑星探査機はやぶさの大冒険』(マガジンハウス、東映で映画化)、『小惑星探査機はやぶさ2の大挑戦』(講談社)など多数。『日経ビジネスONLINE』では「ポスト3.11日本の力」「山根一眞のよろず反射鏡」を連載中、福島第一原発の廃炉技術も追い続けている。理化学研究所相談役、日本生態系協会理事、宇宙航空研究開発機構客員、福井県文化顧問、2018年国民体育大会(福井県)式典総合プロデューサーなど。日本文藝家協会会員。

山根一眞オフィシャルサイト
http://www.yamane-office.co.jp
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