バックナンバー
第4回 タイムマシンで100年前の図書館へ
2015年4月20日 山根一眞

大英博物館の蔵書か? 描かれている本の謎にせまる

 あれまぁ、欧州の大学や博物館など高名なる図書館の図がごっそり。建物だけでなく内部の図面、座席数までわかる見取り図など続々でわくわくです。

図書館のページ。
 ここで、ちょっと気になったのが3点の図版があるページだった。
 下の一番大きな図はケンブリッジ大学トリニティ校の図書館。ここは名門かつ美しい図書館として写真で何度か見たことがあるが、それらの写真と比べても、この図では図書館の隅々までくっきり鮮明にわかるのが楽しくて。
ライデン大学、大英博物館、ケンブリッジ大学の各図書館の図。
 その上の2枚の図版には、本を探したり閲覧したりしている人の姿が描き込まれている。珍しい!
 左はオランダ、ライデン大学の図書館だが、「なーるほどぉ!」と感心したのが書棚の下にあるバーです。書棚の高いところにある本を取り出す時に、いちいち踏み台を持ってこなくても済むように踏み台代わりのちょっと高いバーが設置してあるのです。
 これ、日本の図書館や古本屋でもぜひ採用してほしいな、と思いましたね(という発見も楽しい)。 
 その右の図には3人の人物が描かれていて、まさに本を取り出そうとして閲覧中です。あれ、こっちにはライデン式の踏み棒がないので、左の人は背伸びして大きな本を出そうとしています。
「大英博物館図書館の書棚」と説明にある。
 この書棚にはどんな本があるんだろうと空想がわきます。
 そこで、よーく見る、おっ、手を伸ばしてまさに取り出そうとしている本の文字が見えるような感じがしたので(肉眼では判読不可能)、スキャナーにかけて拡大してみたのです。
 おお、出てきました、何やら文字が。
 この時代の図がいかにすごいかをあらためて感動。
 さらに拡大したところ、文字が読めるじゃないですか!
左の線は定規の目盛り。本のサイズは縦約8mm、文字のサイズは縦0.8mmほどだが、かろうじてそれが読めた。
 もっとも、ここから苦しみの日々が始まったのです。
 今回の原稿を編集部に送るのがどんどん遅れてしまったのは、これが原因でした。
 3行の文字列の下の2行は、しっかりと判読できた。
  BERLIN
  1881
 ドイツの百科事典なので、ドイツ関連の本を描き込んだのだろうか。1881年のベルリンであった何らかの事象を描いた本なんだろうか? 困ったのが上の文字列。
  DES hBulz
 と、読めるのだが、これは一体何を意味しているのだろう?
 著者名かなと思い、まる1日かけて調べたのだが手がかりが得られない……。では「Bulz」の意味?
 出てきたのは、「ルーマニアのチーズ卵料理」なのだ。いったい、それと「1881年のベルリン」がどんな関係にあるのか?
 じゃ、1881年のベルリンでは何があったのかをドイツ史で調べたところ、2つに絞り込めた。
 1)1881年 ベルリンで世界初の路面電車が開業
 2)1881年 ドイツ、オーストリア、ロシア3国による三帝同盟が復活
 後者の可能性もあるが、かなりの大判サイズの本のようなので、図版集かもしれない。となると、世界初の路面電車の本か?
 そこで、この百科事典で「路面電車」を調べてみた。ドイツ語では「Straßenbahn」だが、その項目はなかった(まだ一般的ではなかったから?)。「電車」を引いても路面電車はなし。その代わり、またもや美しい電車の図が出てきた。
 
「電気式高速鉄道のモーターカー」という説明がある図。
 これで喜んでいてはいけない。
  DES hBulz
  BERLIN
  1881
 とはどんな本かを調べねば。
 「DES hBulz」の部分が不鮮明ゆえ、これが正確にわかれば手がかりが得られるかもしれない。そこで、親しいドイツ人夫妻にこの画像を送ってどう読めるかを尋ねたのだが、「わかりません」という返答だった。インテリのドイツ人でもわからないとは・・・・・・。
 この図書館の書棚は「大英博物館の図書館」なので、そこで「大英博物館」のウェブを探し、収載資料の検索をしてみた。
http://libraries.britishmuseum.org/client/default
 「BERLIN 1881」で検索したところ91件がヒットしたのだが、いずれも1881年刊の書籍のみで、本のタイトルにこれが入っているものは見つからなかった。
 およそ1週間、この「DES hBulz BERLIN 1881」に翻弄されてしまったが万事休す。大好きな大英博物館ゆえ、次回、訪ねた時にこの本の所在を聞くことにしようとあきらめて、この百科事典をパタンと閉じたところ、ぼろぼろの背表紙から小さなクモが飛び出してくる始末。
 クモのすみかと化した百科事典だが、こうして私の興味、関心を次々とひきおこす力があるのだから、思いきってバラバラにして高画質スキャンをして私だけの超貴重デジタル本にしようかなと思っているところです。<第4回了>
筆者註:本文中の図版の出典は「Meyers Großes Konversations-Lexikon 1905」です。
●次回は、5月4日に更新予定です。
【ご意見、感想をお寄せください】
○電子メール/kokugo@shogakukan.co.jp
○ツイッター/@web_nihongo
○Facebookページ/https://www.facebook.com/webnihongo
第4回 タイムマシンで100年前の図書館へ
1   2   3

著者画像
著者プロフィール
山根 一眞(やまねかずま)
 ノンフィクション作家・獨協大学特任教授
 1947年、東京生まれ。獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒。20代からジャーナリズムの仕事を開始。先端科学技術や情報分野、アマゾン環境問題など広いテーマで「謎」を追い求めてきた。NHK総合テレビでキャスターを7年こなし、北九州博覧祭では「ものつくりメタルカラー館」の、愛・地球博では愛知県の総合プロデューサーをつとめた。2009年から母校で経済学部特任教授として環境学や宇宙・深海、生物多様性などをテーマに教鞭もとっている。3.11で壊滅した三陸漁村・大指の支援活動も続けている。主な著書に単行本と文庫本25冊を刊行した「Made in Japan」を担うエンジニアたちとの対談『メタルカラーの時代』シリーズ(小学館)、『環業革命』(講談社)、『小惑星探査機はやぶさの大冒険』(マガジンハウス、東映で映画化)、『小惑星探査機はやぶさ2の大挑戦』(講談社)など多数。『日経ビジネスONLINE』では「ポスト3.11日本の力」「山根一眞のよろず反射鏡」を連載中、福島第一原発の廃炉技術も追い続けている。理化学研究所相談役、日本生態系協会理事、宇宙航空研究開発機構客員、福井県文化顧問、2018年国民体育大会(福井県)式典総合プロデューサーなど。日本文藝家協会会員。

山根一眞オフィシャルサイト
http://www.yamane-office.co.jp
バックナンバー