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第5回 ゴキブリで学ぶネット検索
2015年5月4日 山根一眞

書斎にいながら世界中の書庫を調べ歩ける

 さてそこで、熊楠先生が引用している件のページ、「155ページ」を見たところ、あれま、全然違うことが書いてあるじゃないの。おかしい……。そこで、このウェブでこの本を表示したあと、「Search in this text」で熊楠引用のページを検索してみることにした。
検索語には何がよいかが問題だったがこの一文だけしかなさそうな語として「牛肉」を選び「beef」で検索したところ見事ヒット。
 ダウンロードしたPDFでは本文のキーワード検索はできなかったが、ウェブ上で表示すると検索可能なのだ。
 熊楠先生の日本語訳をもとに、いくつかの英語のキーワードを考えて検索したところ、おお、出ましたねぇ、ぴったり熊楠先生が引用しているページが。それは、「155ページ」ではなく「255」ページだったのです。
『The songs of the Russian people』の扉ページとゴキブリについて記述がある255ページ。
 熊楠先生ですら、引用で間違うことがあるんだと知って、ちょっとホッとしましたです(私も、つい、そういうミスをしちゃいますから)。
 それにしても、引用文献をきちんと記し、かつ、ページ数まで入れてあるなんて、何と熊楠先生のエライこと!(できれば原書のオリジナル言語表記をしてほしかったが)。貴重な文献を適当に引用して出典を明らかにしない記事が多い昨今、これには敬服のいたりです。
 ちなみに私が『十二支考』のゴキブリに至ったのは、「ゴキブリ=油虫」と置き換えて検索した結果だったのだが、ちょっと不安が。果たして熊楠先生が『露国民謡』で「油虫」と書いているのは「ゴキブリ」のことなのだろうか?
 『The songs of the Russian people』の255ページを見たところ、「cockroach」ではなく、件の虫を「tarakan」と記してある。ありゃ、ひょっとしてこの「油虫」は「ゴキブリ」ではなかった?
 これを確かめるため、ここでGoogleのオンライン「翻訳サービス」を使います。
 Googleの翻訳サービスでは、じつに90以上の言語の相互翻訳が無料で利用可能。しかも、読めない言語のホームページの日本語化もできるのです。翻訳したい単語を入力する囲みに、読めない言語のホームページのアドレスをコピー&ペーストすると、そのホームページの全文が日本語など指定した言語で表示されるのだ(変な日本語にはなるが、ま、目安としてはまずまず)。
Googleのオンライン翻訳サービスでは90ヶ国以上が対応している。https://translate.google.co.jp/
 もっとも単なる多言語辞書として使うには、訳語が1つしか出てこないなど何とも貧弱きわまりなく「ダメだ、こりゃ」と思うことがしばしばだが、シンハラ語だのバスク語だのマルタ語など、辞書の入手が不可能な言語では助かります。ある単語や文章が何語かわからなくても、「言語を検出する」をクリックすると自動判別してくれるのもありがたい。
 そこで「tarakan」は「ゴキブリ」かどうかを確かめるため入力。「言語を検出する」でクリックしたところ「ジャワ語・自動検出」と出て、日本語訳は「タラカン」。わけがわからない。ロシア語なのにインドネシア語が出てきたのは明らかな誤りだろう。ここから先は、コツが必要なのだ。「tarakan」の翻訳ではこう考えてやってみた。
 まず、これは英語の本だが「ロシアの話」なので英語の「tarakan」を「ロシア語」に翻訳指定してみた。やってみたところ「Таракан」と出た。私はロシア語は全然ダメなのでこれ、どう読めばいいのかもわからない。ゴキブリかどうかも。
 そこで、「Таракан」をコピーし、左の翻訳したい語の側にペーストし、「ロシア語→日本語」と翻訳指定してみた。結果は……「ゴキブリ」。
 やったぁ! 熊楠先生が「油虫」と翻訳したのは「ゴキブリ」で間違いありませんでした。
 「調べもの」というのは、こうやって興味にまかせて膨大かつ巨大な世界の人類が蓄積して「知」の山から、望む宝物を探し出すことなので、何とも楽しい。しかもネット時代ゆえ、ロンドンだろうがニューヨークだろうがサンクトペテルブルグだろうが、書斎にいながらにして世界中の書庫を調べ歩けるのだから、何ともすばらしいです。いい時代になりましたよね。
第5回 ゴキブリで学ぶネット検索
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著者プロフィール
山根 一眞(やまねかずま)
 ノンフィクション作家・獨協大学特任教授
 1947年、東京生まれ。獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒。20代からジャーナリズムの仕事を開始。先端科学技術や情報分野、アマゾン環境問題など広いテーマで「謎」を追い求めてきた。NHK総合テレビでキャスターを7年こなし、北九州博覧祭では「ものつくりメタルカラー館」の、愛・地球博では愛知県の総合プロデューサーをつとめた。2009年から母校で経済学部特任教授として環境学や宇宙・深海、生物多様性などをテーマに教鞭もとっている。3.11で壊滅した三陸漁村・大指の支援活動も続けている。主な著書に単行本と文庫本25冊を刊行した「Made in Japan」を担うエンジニアたちとの対談『メタルカラーの時代』シリーズ(小学館)、『環業革命』(講談社)、『小惑星探査機はやぶさの大冒険』(マガジンハウス、東映で映画化)、『小惑星探査機はやぶさ2の大挑戦』(講談社)など多数。『日経ビジネスONLINE』では「ポスト3.11日本の力」「山根一眞のよろず反射鏡」を連載中、福島第一原発の廃炉技術も追い続けている。理化学研究所相談役、日本生態系協会理事、宇宙航空研究開発機構客員、福井県文化顧問、2018年国民体育大会(福井県)式典総合プロデューサーなど。日本文藝家協会会員。

山根一眞オフィシャルサイト
http://www.yamane-office.co.jp
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