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第11回 「恐竜王国福井」の誕生

2015年9月7日 山根一眞

発掘し、調べ尽くし、公開する

 集客役に駅前に動員された恐竜たちだが、この恐竜たちは福井県が総力をあげて大規模発掘を続けてきた「成果」。大きな学術的価値を持っているのだから、単なる客寄せの「ゆるキャラ」とは一線を画していることは知っておいてほしい。

 ところで、「調べもの極意伝」でなぜ恐竜をとりあげるのか?
 福井県が取り組んでいる恐竜プロジェクトが目指すのは、数十億年にわたる地球の歴史と生命史を空前の規模のフィールドワークをもとに徹底して解明、調べ尽くし、広く公開することにある。つまり、単にネットで調べて「わかった!」と納得するような今時の「調べもの」とはスケールが違う「調べもの」なのだ。
 1980年代に私は、情報の仕事の教科書になるようにと、『情報の仕事術(全3巻)』を出版した(日本経済新聞社刊)。
 「1・収集」「2・整理」「3・表現」という3巻の構成だが、これを恐竜に当てはめれば、

 1・収集:恐竜化石の発掘や地質調査
 2・整理:化石のクリーニングと発掘物の整理、分析
 3・表現:論文発表やかつての姿の復元、そして博物館での一般公開、観光に貢献

 となる。まさに究極の「調べもの」が進行しているのである。
 そこで、ごくごくさわりだが、福井の恐竜の「調べもの」を紹介することにした次第です。
 余談になるが、拙著『情報の仕事術(全3巻)』を1冊にまとめた中国語版が台湾で出版された。訳者は米国留学歴もある博士号を持つ研究者なのだが、それはじつに立派な「海賊版」でした。
『情報の仕事術』「1・収集」、「2・整理」、「3・表現」の各巻(1989年、日本経済新聞社刊)。山根が「仕事術」という言葉を創案、出版したのは1986年(『スーパー書斎の仕事術』)。以降、怒濤のごとく「仕事術」という名を冠した本が1000冊は出ています(溜息)。
 さて、一般の方が「福井の恐竜」について知りたいと思ったら、まず向かうべき場所は福井県立恐竜博物館だ。
 
 場所は、福井県勝山市村岡町。福井駅からはとっても「不便」な場所にある。
 JR福井駅からえちぜん鉄道で約1時間、さらにバスで15分。JR越美北線のルートでも同様に時間がかかる。一番いいのはクルマ(レンタカー)だが、それでも福井駅から50分。
 「どうしてそんな不便な場所なんだ?」と言う人がいるが、福井県立恐竜博物館は恐竜化石の大規模発掘が今も行われている場所のすぐそばに、その研究拠点として建設されたからなのだ。よって、来訪者にとっては、福井県立恐竜博物館を訪ねることは日本最大の恐竜発掘、研究の総本山を訪ねることを意味するのです。
 そして、恐竜博物館に一歩足を踏み入れると、そのスケールに圧倒され、「こりゃ、2日や3日では時間が足りない」と呆然とするに違いない。
福井県立恐竜博物館の内部(中段中央は特別館長の東洋一氏)。(写真・山根一眞)
 世界トップクラスの規模を誇る恐竜博物館であると同時に、ここは世界の恐竜研究の中心的な拠点でもある。特別展がある時には、世界の第一線の恐竜研究者による講演やシンポジウムも開催。私は、その海外の研究者のスピーチを聞きたいために飛んでいったこともある。
 また、この博物館では開館から15年、発掘された恐竜化石を含む岩石の丹念なクリーニング作業を続けており、来館者はガラス越しにその緻密な作業を見ることもできる。
岩石に含まれる恐竜化石を時間をかけてきれいに取り出す「クリーニング作業」。(写真・山根一眞)
 今年、やっと学名がついた「コシサウルス・カツヤマ」も、発見・発掘後、岩石から骨格などを取り出すクリーニング作業が数年間続けられてきたのだ。そうした現場に立ち会えるのが、福井県立恐竜博物館の魅力でもある。
 恐竜博物館の来館者は年間70万人にのぼり100万人を目指しているが、一方で、これでもかこれでもかというほどの恐竜関連施設が続々と誕生している。
 博物館が立地する勝山市にとっても恐竜は地域振興の要。恐竜博物館があるエリアを「かつやま恐竜の森」として整備。子供たちが楽しめる一大恐竜テーマパークになりつつあるのだ。
 びっくりしたのが「かつやまディノパーク」だ。全長400mの森の中の曲がりくねった遊歩道を歩いていくと、森の中に置かれた原寸大の恐竜が人の接近をセンサーで感知し、首をもたげて「ぐぁおー!」と吠えるのだ。そのリアリティは抜群。愛犬同行も可能だが、恐竜をまのあたりにして固まってしまったワンちゃんもいたという。なにせ、全長20mのマメンチサウルスをはじめ次々に出てくる恐竜の数は24頭にのぼるのだ。
 勝山市のNPO法人が運営を担っている超楽しい屋外施設だが、また行きたくなりました。
「かつやま恐竜の森」内にオープンした森の中の動く恐竜展示「かつやまディノパーク」。入場料は500円。(写真・山根一眞)
 という福井県の恐竜だが、当初はこの福井の恐竜も恐竜博物館も知名度はそう高くなかった。
 「福井県がやっている博物館? 北陸の山間部? それ、小さな展示場でしょ?」
 と、受けとめられることが多かったからだ(今もそう思ってしまう人が少なくないが)。
 そこで私は、2000年7月14日の開館を記念して開催された博覧会、「恐竜エキスポふくい2000」で応援団長を命じられたのを機に、以降、しばしば博物館を訪ねその魅力を広く伝えることに尽力してきた。
 もっとも人生の後半になって恐竜に熱中するようになったのは、この博物館の開館数年前から現・特別館長の東洋一さんに福井の地層と恐竜について多々学ばせてもらってきたか影響が大きい(それによって少年時代の化石好きへの「先祖返り」をしてしまったのかも)。

 一般の方々が福井の恐竜世界を実感できる場所は、博物館のエリアだけではない。

 恐竜化石の発掘現場を見るサービスも用意されているのです。
<第11回了/恐竜シリーズはまだまだ続きます>
●次回は、9月24日更新の予定です。
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第11回 「恐竜王国福井」の誕生
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著者プロフィール
山根 一眞(やまねかずま)
 ノンフィクション作家・獨協大学特任教授
 1947年、東京生まれ。獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒。20代からジャーナリズムの仕事を開始。先端科学技術や情報分野、アマゾン環境問題など広いテーマで「謎」を追い求めてきた。NHK総合テレビでキャスターを7年こなし、北九州博覧祭では「ものつくりメタルカラー館」の、愛・地球博では愛知県の総合プロデューサーをつとめた。2009年から母校で経済学部特任教授として環境学や宇宙・深海、生物多様性などをテーマに教鞭もとっている。3.11で壊滅した三陸漁村・大指の支援活動も続けている。主な著書に単行本と文庫本25冊を刊行した「Made in Japan」を担うエンジニアたちとの対談『メタルカラーの時代』シリーズ(小学館)、『環業革命』(講談社)、『小惑星探査機はやぶさの大冒険』(マガジンハウス、東映で映画化)、『小惑星探査機はやぶさ2の大挑戦』(講談社)など多数。『日経ビジネスONLINE』では「ポスト3.11日本の力」「山根一眞のよろず反射鏡」を連載中、福島第一原発の廃炉技術も追い続けている。理化学研究所相談役、日本生態系協会理事、宇宙航空研究開発機構客員、福井県文化顧問、2018年国民体育大会(福井県)式典総合プロデューサーなど。日本文藝家協会会員。

山根一眞オフィシャルサイト
http://www.yamane-office.co.jp
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