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第14回 鳥と恐竜のミッシングリング(後編)
2016年4月21日 山根一眞

調べ尽くしてビジュアル化した成果<論文1>

 こうして何とか作ることができた「図解版・季強教授の中国の羽毛恐竜と鳥類の起源」をどうぞご覧下さい。
 
 鳥類の起源は国際的な重要課題であり科学者にとって取り組むべき興味のある問題である。
 研究の歴史は19世紀半ばまで遡ることができる。
 1860年(万延元年)、一枚の化石化した羽根がドイツ、ババリアのジュラ紀後期の礁湖の石灰岩の地層から発見された。そして1861年(文久元年)には同じ地方から奇妙な動物の骨格が発見された。
 鳥のような翼と羽根を持ち、しかし同時に長い骨のある尾と獣脚類恐竜に見られる歯のある顎を持っていた。これがドイツの重要な財産であるArchaeopteryx(アーケオプテリクス・始祖鳥)で、世界的に140年以上にわたってよく知られているものである。
 1860年代初期には、しかしながら科学者たちは鳥類の祖先が恐竜に由来する可能性があるとは考えもしなかった。
 1860年代の末トマス・ヘンリー・ハクスリーが最初に恐竜と鳥類を結びつけた。
イギリスの生物学者、トマス・ヘンリー・ハクスリー(1825-1895) 出典:http://ihm.nlm.nih.gov
 ハクスリーは、ダチョウとメガロサウルス(巨大な獣脚類の恐竜)の解剖学的比較から、 Struthio camelus (ダチョウ)と Megalosau Beipiaosaurusrus(メガロサウルス)が共通する35の特徴を持つことを発見し、鳥類が恐竜と密接な関係にある可能性を指摘した。
 
 しかし当時は鳥類が恐竜の子孫であるというハクスリーの考えは好遇されず、ほとんどの科学者によって Struthio camelus (ダチョウ)とMegalosaurus(メガロサウルス)に共通したすべての特徴は独立して進化したものだとの議論がなされた。
 彼らは恐竜が鳥類を生み出したのかどうか確信がなかった。
 事実、多くの非恐竜説、例えばテコドント説、ワニ近縁説、恐竜近縁説、主竜類説などが当時の学界の主流の地位を占めていたのである。
 イェール大学のジョン・オストローム(1928~2005)は最も著名な古生物学者だった。
アメリカの古生物学者、ジョン・H・オストローム(1928~2005) 出典:PALEONTOLOGICAL STUDIES#1B38134
 彼は Deinonychus(デイノニクス)、Compsognathus(コンプソグナトス)、そして Archaeopteryx(始祖鳥)の解剖学的な比較を行っている間にこの3種の動物の多くの類似性に衝撃を受けた。
 彼は、鳥は小型の獣脚類に由来すると信じ、この説を復活させた。
それ以来、彼の説に賛同する科学者の数は増え、鳥類の起源の研究について多くの調査が行われた。
 ジャック・ゴーティエ1986・昭和61年)が系統発生学における恐竜と鳥類の分岐論関係の最初の研究を行ったことに触れておくべきだろう。
ジャック・ゴーティエ(イェール大学教授)。出典:https://brucemuseum.org
 彼は鳥類の最も近い絶滅した同類は小型の獣脚類であるというオストロームの考えを強く追認した。
 しかし1970年代から80年代の間、鳥類の起源の問題は熱心な議論の的となっていた。
 なぜなら鳥類と獣脚類恐竜の間には依然大きな隔たりが存在しており、鳥へと推移する新しい動物が世界のどこからも発見されず古生物学的な証拠がなかったからである。

決定的証拠となる化石発見<論文2>

 1995年(平成7年)に、Hou Lianhaiと同僚たちが、
Hou Lianhai(ホウ・リャンハイ、侯連海・中国科学院古脊椎動物與古人類研究所教授)出典:http://www.dino-pantheon.com/museumreport/hou.html
 化石鳥 Confuciusornis(孔子鳥)をが中国遼寧省西部のYixan(義県)層で発見したと報告を行った。
 この鳥は嘴と尾端骨、風切り羽根のある二枚の翼を持った最初の原始的な鳥だった。孔子鳥は飛べたと考えられている。
 孔子鳥の発見は、私が思うに中国の鳥類の起源についての研究の幕をあけた大変重要なものである。
 1996年Ji Qiang(季強)Ji Shuan
Ji Qiang(ジー・クアング、季強・中国地質科学院地質研究所教授、この講演を行った研究者)出典:FPDM
中国遼寧省西部のSihetun地方でYixan層の下部から小型の獣脚類恐竜 Sinosauropteryx prima(シノサウロプテリクス・プリマ)を報告した。
 Sinosauropteryx (シノサウロプテリクス)は、Confuciusornis sanctus(コンフキウソルニス・孔子鳥)と大変よく似ているが、違いは前者には3本指の指手があり、長い骨のある尾と短い繊維状の構造物が体全体を覆っていたことである。この繊維状のものを羽根の祖系と呼ぶ科学者もいる。あるいは現代の羽根の前駆体と呼ばれることもある。
 どちらにしろ、これは確かに毛の相同物よりも羽根の相同物である。
 しかし中国の研究者の中にはこの構造物を「毛」と考え、 Sinosauropteryx(シノサウロプテリクス)はCompsognathus(コンプソグナトス)と同じものであるとし、

Sinosauropteryx(シノサウロプテリクス)という名前は無効であるとしている。
 どちらにしても Sinosauropteryx(シノサウロプテリクス)は世界で最初に発見された羽毛で覆われた獣脚類恐竜であり、その発見は恐竜と鳥類との関係を蘇らせ、世界的な鳥類の起源の研究を進展させたのである。
 
 1997年Ji QiangJi Shuanは2体目の羽根に被われた獣脚類恐竜 Protarchaeopteryx robusta(プロターケオプテリクス)を、再び遼寧省西部北票に近いSihetunの化石発掘現場で発見した。
 これは尾の先端にはっきりとした本物の羽根を持っていた。しかし何人かの専門家は尾の羽根は Protarchaeopteryx (プロターケオプテリクス)のものではないと考えた。この動物の標本を見たことがないにもかかわらず、である。
 彼らはこの獣脚類恐竜の骨格が不自然にも正体不明の鳥の羽の上に横たわっていた可能性があると想像したのである。
 しかし事実は議論より強い。
 現在ではProtarchaeopteryx(プロターケオプテリクス)が原羽毛を発達させ、さらに現代的な羽根を持っていたことは広く受け入れられている。
 1998年Ji QiangPhilip CurrieMark NorellJi Shu-an が3体目の羽毛のある恐竜、Caudipteryx zoui(カウディプテリクス)を報告した。
第14回 鳥と恐竜のミッシングリング(後編)
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著者プロフィール
山根 一眞(やまねかずま)
 ノンフィクション作家・獨協大学特任教授
 1947年、東京生まれ。獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒。20代からジャーナリズムの仕事を開始。先端科学技術や情報分野、アマゾン環境問題など広いテーマで「謎」を追い求めてきた。NHK総合テレビでキャスターを7年こなし、北九州博覧祭では「ものつくりメタルカラー館」の、愛・地球博では愛知県の総合プロデューサーをつとめた。2009年から母校で経済学部特任教授として環境学や宇宙・深海、生物多様性などをテーマに教鞭もとっている。3.11で壊滅した三陸漁村・大指の支援活動も続けている。主な著書に単行本と文庫本25冊を刊行した「Made in Japan」を担うエンジニアたちとの対談『メタルカラーの時代』シリーズ(小学館)、『環業革命』(講談社)、『小惑星探査機はやぶさの大冒険』(マガジンハウス、東映で映画化)、『小惑星探査機はやぶさ2の大挑戦』(講談社)など多数。『日経ビジネスONLINE』では「ポスト3.11日本の力」「山根一眞のよろず反射鏡」を連載中、福島第一原発の廃炉技術も追い続けている。理化学研究所相談役、日本生態系協会理事、宇宙航空研究開発機構客員、福井県文化顧問、2018年国民体育大会(福井県)式典総合プロデューサーなど。日本文藝家協会会員。

山根一眞オフィシャルサイト
http://www.yamane-office.co.jp
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