第23回 「気(き)」だけじゃなく「カ」「ケ」「リ」も“抜ける”?

 「気(き)が抜けた」、と言ってもコラムの更新の間隔が開いてやる気がなくなったというわけではない。ビールやコーラの炭酸が抜けた状態を「気の抜けたビール」などと表現することがある。当然のごとく「気=炭酸」のことで、「気」は「気体」の意味だと思い込んでいた。ところが、国語辞典を引くと、「気」には、「そのもの特有の味わい、かおり」という意味があるではないか。今回の一枚:クリックすると大きくなります『日本国語大辞典』によれば、鎌倉時代から用例が見られ、「花の香り」を表現するときによく使われたようである。近代になって「気の抜けたコーヒー」のような使われ方をするようだが、いまでは、炭酸飲料に限定された言い回しとなっている。

 同じ「気」という表記を「ケ」と読んで、「味、匂い」を意味する用法があるが、それはさらに古く、平安時代末までさかのぼるという。現代では「気(け)」を単独で使うことはないが、「塩気が足りない」などと言うように、複合語の一部として生き続けている。

 そうなれば福井の「ケがぬける」も古い用法が残っているのだと合点がいく。決して炭酸飲料に“毛”が生えているわけではないのである。

 そもそもビールやコーラの炭酸が弱まるということは、本来の味わいが無くなることに等しいということだろう。

 静岡やその周辺地域で使われる「カがぬける」も同じ発想による表現と言えよう。「カ」は「ケ(気)」の変化形とも考えられるが、「香り」の「カ」とも言えそうだ。わさびや辛子の辛味が弱くなって風味が損なわれた状態に対しても使うようだ。

 先日、山形の庄内地方で耳にした表現が、「このビール、りぬげだ」。「り」が味や香りを意味しているようだが語源は定かではない。もしかしたら、東北地方には、「はたらき、効用」を意味する漢語の「利(り)」が方言として使われている地域があるので、「り抜け」が「炭酸のはたらきが弱まった」という意味で用いられるようになった可能性も考えられる。

 青森では「いんか抜けた」と言う。「いんか」は、「ものを飲み下す」ことを表す「えんか(嚥下)」の変化形で、「炭酸が弱まるとスッと呑み込める」という語源説もある。全くの偶然だが、微炭酸の「インカ・コーラ(INCA KOLA)」なる代物がある。ペルーで発売された黄色のコーラで、アメリカではゴールデンコーラの名称で人気があるらしい。

 ショッピングのついでに雑貨屋をのぞいていたら、「炭酸抜けま栓」というグッズを発見した。栓の上に付いている小さなポンプで加圧する仕組みだが、効果はどんなものだろうか。

第23回 「気(き)」だけじゃなく「カ」「ケ」「リ」も“抜ける”?